【番外編】もしも、高校生だったなら……

5/7

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/207ページ
「私は……」  誰を選んでも恨みを買いそうな気がする。それにしても、夢の中の私は現実の私と一緒で、ずいぶんとモテているようだ。昔の私なら信じられない光景だ。昔の私は、自分の特異体質に気づいて以来、なるべく目立たないように生きてきた。 「なぜ、そこで涙を流すのだ?」  九尾のあきれた声に我に返る。慌てて目元を触ってみると、涙が流れた濡れた感触がある。無意識に涙を流していたようだ。悲しくて涙が出たという訳ではない。むしろ、過去の自分に今の自分を見せて自慢してやりたいくらいだ。 今の自分はとても恵まれていて、たくさんの仲間に囲まれているぞ。 「だから言ったでしょう?こんなところにいるから、涙もろくなるんです」  また、新たな人物が教室にやってきた。いや、正確には人ではないが、彼のことはよく知っている。 「涙もろくてもいいじゃないですか。車坂、先生」 「それで、お昼を誰と食べるかを相談をしていたようですが、残念ながらあなた方の願いは叶いません」  こいつも夢に出てくるとは。新たに登場したのは死神の車坂だった。死神のくせに、人間とともに生活している変わり者だ。お金も自力で稼いでいて、私の働く個人指導塾の上司である。塾で働いているときは黒いスーツを身に着けていたが、今も同じ格好をしているので教師をしているのだろう。  車坂は私以外に視線を向けて大きな溜息を吐く。そして、私にとって一番会いたくない人物の名を口にする。 「瀧先生が朔夜さんに話があるようですよ。話は長くなりそうですから、朔夜さんは彼とお昼を食べることになると思います」 「お断り」 「私に言ってもらっても困ります。嫌なら、本人に直接言って、さっさと戻ってくることです」  車坂は私の返事を途中で遮り、無慈悲な言葉を突き付ける。会いたくないのに、なぜ、直接会って、それを相手に伝えなくてはならないのか。  瀧。彼のせいで私の二度目の大学生活が大変なことになった。彼だけのせいにしてはいけないが、彼のせいでたくさんの人が亡くなっている。私と一緒にお昼を食べたいと言った彼らの中にも犠牲者がいる。  しかし、瀧もまたすでに亡くなっているはずだった。現実で会う事は二度とない人間だ。駒沢といい、瀧といい、どうして夢の中なのに私の嫌いな人物まで出てくるのか。 「お断りします」 「何度も言わせないでください。嫌なら本人に直接言って」  当然、車坂の言葉だろうと聞く気はない。再度、断わりの言葉が口から出たが、車坂は私に拒否権を与えない。そうだとしても。 「お断りします」 「まったく、教師という仕事も面倒ですねえ。無理やり連れて行きたくはないのですが」  私がめげずに断わりの言葉を口にしていたら、車坂は嫌そうな顔をしながらも、どこかあきらめた表情をした。私が絶対に彼に会いたくないという強い意志を感じたのか、今度は実力行使に出るつもりらしい。  もし、車坂が本気を出したらどうなるのか。死神の本気を見たことがないからわからないが、油断はできない。まだ、夢の中で自分の能力が使えるかは判明していない。それでも、今ここで車坂を黙らせるには能力を使うしかない。そう思って、車坂に視線を合わせようとしたが。 「蒼紗は連れて行かせない!」 「わ、私も佐藤さんの意見に賛成です!」 「蒼紗は私のものだから、私の許可なく、他人に引き合わせるのはなしよ」 「桜華のいうことは間違っているが、無理やりはよくない」 「あんな男の元に蒼紗お姉ちゃんを行かせられない」 「同意だ」
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加