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「ジリリリリリリ」
目覚ましの音で目が覚める。音を止めるために時計に手を伸ばすと、時刻は7時。ベッドから起き上り、辺りを見回すと、そこには見慣れた私の部屋の風景が広がっていた。カーテン越しから日の光が漏れている。朝の7時ということだろう。とても面白い夢を見た。
夢といえば、私には予知夢という能力が備わっている。しかし、今回見た夢はそれとは違うだろう。予知夢にしてはあまりにも現実味がなさすぎる。私が高校生に戻ることなどありえない。だって、私は今、二度目の大学生活を送っている最中なのだから。
とはいえ、もし、二度目の大学生活で出会った彼らと高校生時代に会っていたらという、とても面白い夢だった。願わくば、もう少し夢の中で高校生活を満喫したかった。
「瀧の顔を見なくて済んだのは、良かったけど」
瀧の顔を見る前に目が覚めたのは幸運だったかもしれない。彼の顔を見たら、自分が何をしでかしていたのかわからない。彼との出会いによって、私の二度目の大学生活は大きく変わった。まあ、彼だけのせいとは言えないが。
「今週で夏休みが終わりか。あっという間だったな」
今日は9月の最終週の月曜日。10月からは大学の後期の授業が始まる。今年の夏休みはジャスミンや綾崎さんとたくさん遊んだ。九尾たちが退屈そうにしていたので、彼らと一緒に遠くに出掛けたりもした。
ベッドから下りて、パジャマから半そでTシャツと短パンに着替える。9月の終わりとは言え、まだまだ暑い日が続いている。今日もきっと暑いだろう。今日はジャスミンと綾崎さんと一緒に買物をすることになっている。後期の授業が始まったら、彼女達とはほぼ毎日会える。しかし、彼女達にとっては、私と少しでも多く私と一緒に過ごしたいらしい。
トントン。
「どうぞ」
着替えを終えて、部屋を出ようとしたところでドアがノックされる。わざわざノックするということは、相手は翼君か狼貴君だろう。もう一人の居候はノックするような気遣いができる相手ではない。
「おはようございます、蒼紗さん」
「おはよう、蒼紗」
「おはよう。翼君、狼貴君」
「今日は佐藤さんと綾崎さんと一緒に遊ぶ約束をしていましたよね?そろそろ起きないと待ち合わせ場所に遅れてしまいますよ」
「起きていないかと思って、心配で見に来た」
まるで、私の保護者のようなことを言う、うさ耳と狼耳、さらには尻尾をもつケモミミ姿の2人にキュンと胸がときめく。容姿も年齢も私の方が明らかに上で、普通なら彼らのセリフは私が言うべきものだ。これがギャップ萌えというものかと、心の中で感動する。
「まったく、お前らは心配性だな。そんなの、放っておけばよかろう」
翼君たちと話していたら、その後ろから九尾が顔を出す。そういえば、夢の中で見た翼君と狼貴君は高校生で、ケモミミと尻尾は生やしていなかった。
「やっぱり、君たちにはその姿が一番だよ」
つい、本音が口からぽろりと出てしまった。今の2人にはしっかりとケモミミと尻尾が生えていて、おまけに少年という言葉が似合う年齢をしている。つまり、小学生高学年から中学生くらいの絶妙な年齢の男の子だ。やはり、この年齢のケモ耳姿は素晴らしすぎる。この点においては、この姿にしてくれた九尾に感謝しかない。
しかも、二人はケモミミが被っていない。翼君にはうさ耳、狼貴君には狼耳、性格も翼君は明るい系、狼貴君はクール系と見事に私の性癖をぶち抜いている。
ちなみにその神様である九尾もまた狐耳をはやしている。彼は九尾という名の通り、本来は狐の尻尾が九つに分かれているが、今はモフモフした尻尾がお尻から一本生えているだけだ。触ったことは無いが、きっと触り心地抜群だろう。
「変な夢を見たみたいだな。まあ、お主らしいと言えば、らしいが」
九尾は人の心が読めるらしい。神様だから当然かもしれないが、隠し事ができないのは厄介だ。
「いったい、どんな夢を見たんですか?」
「気になる」
しかし、九尾の眷属になった彼らは、もとは人間でさすがに人の心は読めないようだ。夢の内容が気になるようだが、話す気はない。
「秘密です」
「夢の内容はともかく、今のお主の頭の中をばらしてやろうか。翼、狼貴、いつにもまして警戒せよ。まったく、腐った脳内をしておる」
九尾まで私の部屋にやって来たので、私は彼らと話しながら、二階の自分の部屋を出て一階のリビングに向かった。階段を下りているうちに私の脳内を察したのか、翼君たちは何も言わなくなった。その代わりに呆れた視線を向けてくるので、にっこり微笑んでごまかした。
「いい天気だ」
一階のリビングから窓の外を見ると、雲一つない快晴だった。ジャスミンと綾崎さんと買い物をするのにぴったりの天気だ。
私は今日も、九尾や翼君、狼貴君、ジャスミンや綾崎さんたちと他愛のない日常を過ごしていく。夢もいいが、やはり現実が一番だ。私は今のこの生活が気に入っている。
「後期もまた、いろいろあるだろうな」
夏休も残りわずか。楽しむだけ楽しもう。
きっと私は後期に入っても、厄介なことに巻き込まれるだろう。でもまあ、それはそれで対処していくしかない。
「続いては今、ネットで話題のこの方。なんと、今回、スタジオにまで足を運んでくださりました。西炎(さいえん)さんです!よろしくお願いします」
リビングでテレビをつけながら朝食を取っていると、何やら狐のお面を被った人がゲストに登場していた。まさか、彼が私たちの大学に来るとはこの時は思いもしなかった。
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