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「おい! 毒まり! 」
都心から電車で3時間ほどの海辺の町。海水浴シーズンには賑わいを見せるも、海風が体の熱を冷ます頃には祭りの後のような静けさを見せる。
それでも熱心なサーファーは良い波さえ届けばと、一年中この町に足を運ぶ人たちも多い。
少し大きめのブレザーに身を包み、リュックを背負った海斗が少年たちの声に反応し、顔を横に向ける。
海斗の中学校の一つ上の颯太と翔が海斗に声をかける。
高台にある中学校は、芝生に囲まれ全校生徒は200名足らず。小学校、高校もほぼ同じ生徒が通い、夢を持つ者、進学校を希望する者のみがこの町を出て行く。
道路を挟む様に広々とした歩道があり、その周りには等間隔で街路樹が並んでいる。ヤシの木が海辺のイメージをそのままに丸くうねった大きな葉がまだ誰も気が付かないまま、ひっそりと冬の始まりを知らせる。
颯太と翔は海斗の前に立ち塞がる。
「俺の知り合いのねーちゃんが毒まりんちのラーメン食ったんだってよ。下手したら死んでたんだぜ」
「おい! 人殺し! 」
颯太が海斗の制服のシャツに掴みかかる。
悪戯に睨みつける颯太に海斗は言葉を出さず、唇を噛み締める。
「……人殺しじゃない! 」
海斗は声を荒げ颯太に言い返す。
「はぁ? 生意気言ってんじゃねーよ! 」
颯太は掴んだシャツを強く横に引っ張り、海斗をアスファルトに叩きつける。体がアスファルトに擦り付く音が聞こえ、颯太はすかさず海斗の背中を蹴り飛ばす。
「いっ……」
海斗は背中の痛みに顔を歪め、声を漏らす。
縁石にしゃがんでヤンキー座りをしていた翔は、退屈そうな顔にオモチャを与えられた子供の様な笑みを浮かべ海斗の背中を踏み付ける。
「ゔあぁ……いだ……」
海斗はアスファルトに頬をつけて声を出す。
両手を着いてアスファルトから体を離そうとするも、蹴られた背中の衝撃に小石が皮膚に食い込んで、味わった事のない痛みに起き上がる気力を失わせる。
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