86人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺は刑事でもないし君が何をしたか暴きたい訳じゃないよ。君が捕まれば親だったり海斗だったり悲しむ人はたくさんいると思うし、それもまた仕方のない事だと思う。ただ犯した罪を誰にも言わず、それを1人背負い続ける人生は思っている以上に辛い事だってのを知っておいて欲しいから、こうしてお節介をしに来たんだ」
千尋は横目で葉月を見る。すぐに目を逸らし、また海に目を向ける。
「……あたしは……何も……」
葉月は少し俯きながら、砂浜に足を伸ばす。
「してないならそれで良い……もしもの話だけど……この先君のした事の重みは自分にのしかかってくる。君がそれを見て見ぬふりを出来る子ならそれで良いけど、俺は海斗を良く知ってる。あいつが守りたいと思う相手なら、きっと君はそんな事を気にせず生きていける様な人間じゃないと思ってる」
「……あたしの何を知ってると言うの? 」
葉月が千尋の方を見て、強い目を向ける。
「知らないさ。でも罪を犯した人間の気持ちは知ってるよ」
千尋はタバコを指先に挟んだまま、ゆっくりと瞬きをする。視線は遠く水平線を眺める様に穏やかな顔をする。
「……犯罪者……だったの? 」
葉月が千尋の顔を見たまま、戸惑いながら尋ねる。
「……だったんかな。今もかな……人に言えない事いっぱいしてきたよ。捕まってないだけでね」
「えっ……」
葉月が千尋から少し離れる様に体を遠ざける。
「あはは。そりゃ怖いよね。今は一般人だけど元ヤクザだよ」
千尋はタバコを砂浜に押し付けて、火を消す。
「あっ! タバコ捨てて行くと海斗たちから怒られちゃうっ」
千尋は苦笑いをしながらポケットから携帯灰皿を取り出して、吸い殻を捨てる。
「……元? 何でこんなとこに? 」
葉月は顔を歪ませたまま、千尋に聞き返す。
「んー? 贖罪かな。馬鹿で愚かな俺のせいで大切な人が酷い目にあっちゃったから、一生かけて償う為にここに来た」
千尋は葉月の顔を見ながら、切れ長の目を細めて優しく微笑む。
最初のコメントを投稿しよう!