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「……その人。し……死んじゃったの? 」
「生きてるよ。でも俺のこと全部忘れちゃった。当然だよね。俺のせいで酷い目にあったんだから」
千尋は立ち上がって服に付いた砂をはらう。
「……そんな事が無くたって人は忘れるんだよ。どれだけ愛してたって一方的に忘れられていくの」
葉月は透き通った綺麗な目を赤く染め、潤いを持たせる。
「……そうだな。人は残酷だ」
葉月は千尋から目を逸らし、言葉を詰まらせる様に話し出す。
聞いて欲しい。言いたくない。そんな思いが込められている様な表情だった。
「……愛し合っていたはずの人から、赤ちゃんが出来たから結婚するって……突然言われたの。あたし信じられなくて……」
葉月は足を曲げて顔を埋める。抱え込んだ足を支える指先は震えながらも、力が込められていた。
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