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「……教師だっけ。被害に遭った人の旦那って」
千尋はポケットからタバコを出して、火を付ける。息を吐く様にそっと吸い込んだタバコの煙を吐き出す。
「……ずるいよね。あたしが高校卒業したら結婚しようって言ってたのに。それまでは内緒でって……」
「……海斗の事は? 利用しようと思ったの? 」
千尋は体を震わせる葉月を上からそっと見下ろす。
「最初はそんなつもりじゃ無かった。海斗があたしに好意を持ってくれているのが分かって、あたしも寂しくて……海斗を誘ったの。でもあの日……先生が宿直だって知って……利用しようとした」
葉月はゆっくりと顔を上げて、震える唇が静かに答えた。
「……最低だよね。でもね警察の人に言われて知ったの。先生の奥さんが流産したって」
葉月は自分を見下ろす千尋の顔を見上げた。
「あたしね……ざまーみろって思ったの……」
葉月は口角を僅かに上げて、悲しみに満ちた瞳から一粒の涙を流しながら呟いた。
「……奥さんもお腹の赤ちゃんも何もしてないのにね」
葉月は濡れた頬を指先で拭いながら、唇を震わせながら何度も噛み締める。
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