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「海斗は優しいね」
葉月は海斗の顔を見ながら、抱え込んだ膝に頬を寄せる。
「俺の方こそ……葉月さんに励まして貰ったよ」
「違うの。海斗に言っている様であたしは自分に言い聞かせていたんだ。誰がどうに思ったって先生はあたしの事が好き。きっと奥さんに騙されているんだって……何の根拠もないのに」
葉月は溜息をこぼしながら、顔を歪ませて少し笑った。
「先生から連絡も返って来なくなって……そしたら何か無性に悔しくて悔しくて……あたしは先生の奥さんを見てみたくなったの。どんな顔してどんな生活をしているのか。だからあの日……海斗が来た日、先生が宿直の日を利用して先生の家に行ったの」
葉月は視線を海に向けて、何度も込み上げてくるものを飲み込みながら話す。
「……俺、あの日葉月さんが寝ようかって言ってくれたあと気が付いたら寝てた。何時だか分からないけど、葉月さんが震えてベッドに入ってきて俺の体にしがみ付いていたの覚えてる。俺、すごい嬉しくてぎゅって抱きしめた。俺はそれしか覚えてない」
「……ごめんね海斗……あたしは君を利用した」
葉月が海斗の顔を見て大粒の涙をこぼす。唇を震わせながら噛み締めた。
「……それでも俺は嬉しい。あなたは俺にとって光みたいな人だから。あなたが居てくれたから俺はめげずにいられた」
海斗は葉月の今にも崩れてしまいそうな肩に触れて、優しく微笑む。
「……もっと海斗と早く出会っていれば良かった……」
葉月は海斗から目を逸らし顔を覆って体を震わせる。
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