86人が本棚に入れています
本棚に追加
昼間の喧騒を離れ、静まった海辺の町に3人の男がテーブルを囲む。
暖簾のしまわれた居酒屋「陽まり」にはL字型のカウンターに椅子が5脚。長方形の木のテーブルが3卓並んでいる。
出入り口はガタガタと音のなる引き戸で、磨りガラスの小窓が付いている。出入りする時に、小さな鐘がチリンと鳴る。
「まぁ男の方にも問題があったみたいで、葉月ちゃんの罪は軽くなりそうで良かったなぁ」
顔を赤らめた吉次が陶器のグラスに注がれた焼酎を一気に飲み干す。陽まり定番の陶器のグラスは瑠璃色がグラデーションになっていて、飲み口の方が薄くなっている。
「そうだ! 千尋っ。お前うちに落書きされてるの見つけて1人で片付けてたって本当かよ」
広斗がグラスを手に持ったまま、目を丸くして思い出したように千尋を指差す。
「はっ? 誰からの情報だよ」
千尋はテーブルに肘を置いて横向きに座りながら、足を組み広斗の言葉に顔を向ける。
「あいつらだよあいつら。あのビッグスクーター乗ってるヤンキーたち。あいつらウチに突然謝りに来て、今まで申し訳ありませんでしたって土下座するんだぜ」
「あっ! だからお前、夜な夜な1人で出かけてたんか」
吉次が合点がいったと言う様な顔をして千尋を見る。
「たしかに事件のあと直ぐは何度か落書きされてたんだけど、そのあと一回もないから気にして無かったら、まさかお前が消してたとはねぇー」
広斗が鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌で、吉次の空いたグラスにアイスペールから氷を入れていく。カランカランと鳴る音が広斗の気分と共に弾む。
「はー。お前健気な男だなぁー」
吉次が口角を上げ、目を細めて笑う。グラスに一升瓶から焼酎をドボドボと注ぎ、水を足すことも無くマドラーでガチャガチャと混ぜる。
「うるせー。つーか水入れろよ」
千尋は濃そうな焼酎を想像して、吉次のグラスを指差し苦い顔をする。タバコに火をつけて煙を出しながら、2人に背を向ける。
最初のコメントを投稿しよう!