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迷惑をかけると言うこと
「海斗! ほら行くぞっ」
布団にこもって丸くなっている海斗の布団を千尋が容赦なく剥がす。
「えっ! 千尋っ? え、なに? 」
海斗が眩しそうに片目を閉じながら、手を透かし千尋の姿に目を丸くする。
「せんせー。殴りにいかねぇの? 」
海斗ははっとして体を起こして、ベットに座る。
「……行かないよ。俺の学校にまで先生の話聞こえて来るよ。奥さんにも学校にも葉月さんの事バレて、もうこの町には居られないだろ? 可哀想じゃん。ムカつくけどさ」
「お人好しだなぁ。葉月には? 会いに行かねーの? もう釈放されたろ? 」
「……葉月さんもこの町出て行くんじゃないかな。結局こんな小さい町じゃ何か事件起こしたら生きていけないんだよ」
海斗はあぐらを組んで手を膝に乗せ、うなだれる。
「そんなもんかねぇ。どいつもこいつも騒ぎやがって」
千尋は舌打ちして、海斗の部屋のカーテンを開ける。
「ドライブでもしようぜ」
開けたカーテンから陽射しが差し込んで千尋は思わず片目を瞑る。斜光の中に埃が舞い踊る。
「えっ? ドライブ? 千尋、車ないじゃん」
「借りてきた。こんなとこで、うじうじ丸まってたって何にもなんねーだろ」
千尋はポケットから鍵を取り出して、キーホルダーを利用してクルクルと指先で回す。
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