迷惑をかけると言うこと

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「……間宮先生だっけ? まだ相手とは籍が入って無かったらしいな。相手の女はつい最近まで飲み屋街で働いていた。5年ほど前にこの町に来て、今は20代後半。公務員の彼氏が出来たと周囲に話していて、結婚すると公言していた。妊娠したとは誰にも知らせずに、近々でも酒を飲む姿が見られていた」 「……お酒? 」 葉月が眉を顰めて千尋を見る。 千尋は空を見上げ、喉仏を上下に動かしながら話を続ける。 「……まぁこんな1つの例え話がある。ある女は水商売に疲れ、仕事を辞めたいと思った。しかし手に職のない自分はろくな働き口も見つからない。そこで女は考えた。純粋で真面目そうな男を見つけ、妊娠したと嘘ついて結婚を迫る。無事に籍を入れたら、流産したと偽る。傷付いた妻を演じ、はれて水商売から足を洗い、めでたく公務員の奥さんの出来上がり……」 「……何その話……全然笑えないんだけど……」 葉月が苛立ちながら、顔を左右に振る。 「その通り。ぜんっぜん笑えない胸くそ悪りぃ話さ。そのおかげで1つのカップルは別れ、挙げ句、傷害罪、不法侵入罪になんて問題に発展して、真面目に働いていた男は職を追われ、純粋に恋していた女は学校にも行けなくなりました」 「……千尋。冗談だろ? 」 海斗は表情を曇らせ、千尋に問いかける。
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