迷惑をかけると言うこと

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「そんな話……信じられないよ」 葉月は震える指先を口元に添えて、現実から目を逸らすように参道に散らばる枯れ葉に目をやる。 「信じられない事をする奴がこの世にはいるのさ。お前はきっと傷害罪にも不法侵入の罪にもならなかったはずだ。女が訴えなかったから。合鍵使って入ってるし、お前が投げつけた物が相手の女に当たったけど、青アザで済んだ。しかし流産した。だけどまだ病院にかかる前で妊娠して流産したと言っているのは本人のみ。証拠は何も無い……でも俺は証拠を持ってる」 千尋は参道脇にある大きな石の方まで歩き、腰を下ろす。前屈みになって、膝に腕を置く。 千尋に踏まれた枯れ葉や枝がパキパキと小さな音を立て、風にさらわれていく。 「……証拠? どうして千尋さんが? 」 葉月は千尋を目で追いながら、不思議そうに尋ねた。 「……人の悪事なんて暴こうと思えばいくらでも暴けるんだよ。飲み屋街に出歩いてりゃ顔も広くなるし、口も軽くなる。今さらそんなもん突き付けたって、先生はこの町で教師なんて出来ないし、お前の傷付いたものは消えない。だけどお前の罪悪感だけなら消してやれると思って調べただけ」 「……千尋さん」 葉月は口元をぐっと手で押さえ、喉の奥から込み上げてくるものを堪える。 「ここから逃げ出すのも勝手だけど小さい頃から母娘2人でここで生きてきて、母ちゃんだけ残して居なくなるなんてのはお前がまた違う罪悪感を背負うだけだ」 千尋は顔を葉月に向けて、強い口調で話す。 「……じゃあどうしたらいいの? この町で恥さらしながら生きてたらいいの? 」 葉月は堪えていた涙が目からこぼれ落ちる。子供の様に顔を歪め、声を震わせ千尋に問いかける。 「別に恥なんかじゃないだろ? お前は先生と付き合ってたことが恥なのか? 」 「二股かけられて捨てられたじゃない」 葉月は口元を強く噛み締め、瞬きをする度に大粒の涙が頬を伝う。
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