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「じゃあ俺が全部話してやろうか? この町に住んでるみんなに。先生と生徒が恋に落ちました。けれど先生は女に騙されて、生徒と別れることになりました。その挙げ句、先生はこの町から出る事になり、生徒も学校へ行けなくなりましたって。そしたらみんなから同情の目で見てもらえるよ」
石に座ったまま千尋は右足を左膝に乗せる。前屈みになって右肘を足に乗せ、そのまま右手で頬杖をついて葉月を見つめる。
「……そんな事しなくていい。同情されたい訳じゃないから」
葉月は千尋の視線を遮る様に顔を横に向けて、苛立った様に低い声で答える。
「……何で今日ここに迎え来たか分かる? 」
千尋は頬杖をつきながら、葉月に悪戯に微笑む。
「え……迎え? 」
葉月は訝しげな顔をしながら千尋に目を向ける。
「今日、せんせーこっち離れるんだってよ。最後に会わなくていいの? 」
「……そんな……だって」
葉月は千尋の言葉にはっとしながらも、顔を横に向け大きく息を吸い込む。
「ちゃんと話して来いよ。一発殴るんだろ? 」
千尋は体を起こして腕を組んで、顎をくいっと上に上げる。
「……葉月さん。俺もその方が良いと思う。葉月さんが行かないなら俺が行って殴るよ」
海斗は自分の腕をぐっと掴みながら、険しい顔をして葉月を見る。
「……海斗」
「ははっ。言うねぇ。お前も分かってんなぁ」
千尋は嬉しそうな顔をして海斗を見る。そのまま腰を上げて、海斗の方へ歩き出す。
「……うん……分かった」
葉月は千尋と海斗の顔を一瞥して、顔を下に向ける。
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