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「……それってさ……」
葉月は間宮の姿を見ながら、視線を下に落として言葉を詰まらせる。
「自業自得だよ。葉月の事も本当に傷付けてごめん。謝っても許される事じゃ無いけど……本当にごめん。学校にも行きづらくなっちゃったよな」
間宮は頭を深く下げる。葉月は間宮の背中を見下ろしながら、あの女にも同じ様に頭を下げたのだと思うとやるせ無い気持ちになった。
どこまでお人好しなのだろうと苛立ちを覚えた。
「……先生はどうするの? これから」
葉月は低く喉に絡む様な声を出して、ベンチに腰を下ろし足を組む。
「知り合いのとこにしばらく住ませてもらって、塾の先生でもしようかなって」
間宮も葉月に続く様に、座っていた場所に腰を下ろす。
「……そっか」
「俺が言える事じゃ無いけど、葉月は大丈夫か? お母さんも……」
間宮は葉月の方を向いて、今にも泣き出しそうな顔で葉月に尋ねる。間宮は少し見ない間にとてもやつれた様に見えた。大きくまつ毛の長い目と骨張った頬と鼻。頬が痩けた事で、鼻と頬骨が目立つようになっていた。
「……うん」
「……大丈夫な訳ないよな。俺のせいで……ごめんな」
間宮はベンチに置いていた手を膝に置いて拳を作る。
「……ねぇ。奥さんとのこと聞かせてよ」
葉月は組んでいた足を戻して、前屈みに座り直す。
「えっ」
間宮は葉月の言葉に目を丸くして、葉月の横顔を見る。こちらは見ずに冷たく投げ出すように感じた。
「あたしには聞く権利あるでしょ? 」
「……そんな話聞いたって良い事ないよ」
「……飲み屋さんで出会ったの? 強引に誘われたの? 」
葉月は前を向いたまま、間宮に質問を続ける。
「……そんなの言い訳にしかならないから」
間宮は顔を左右に振りながら、葉月から目を逸らす。
「……言い訳してよ」
葉月は呟いて下を向く。声と肩が震えている様だった。
「言い訳くらいしてよ! そんなにあたしと別れたかった? あたしとはただの遊びだったの? 違うよね? 違うなら……」
葉月はベンチから立ち上がって声を荒げる。
「少しくらい必死になって……言い訳しなさいよ! 」
葉月は間宮を見ながら、溢れる涙を手の甲で拭う。間宮は葉月の姿を見ながら口を開き何かを言いかけて、また口を閉ざす。下を向いて静かに語り出した。
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