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「よかったら使ってください」
そう言いながらポケットティッシュを差し出す。
携帯の学割キャンペーンの広告付き。
あくまでもさりげなく、行く手をはばむことはなく。でも、思わず受け取ってしまうようなタイミングで。
地方都市の小さな大学の校門前。
学園祭の初日ということで人出も多く、学生だけじゃなく高校生や親子連れもいる。
予定よりも早くなくなりそうで心の中でウキウキしていると、聞きなれたイントロが僕の耳を貫いた。
この曲は……。
一瞬動きがとまる。
アイドルグループ「ZAK」のデビュー曲。「全力疾走」。
もう七年も前の「すべてに全力をそそげ」という熱い青春ソングだ。
配りかけたティッシュを持ったまま、フェンス越しに音のする方にゆっくりと視線を向けた。
遠くに見える学園祭のメインステージの上では、派手な色のTシャツをきた男女が踊っている。
タタタン……タタン……。タタタン……タタン……。
耳にしたのは数年ぶりなのに、指先が自然とリズムを刻み始める。
前奏が終わり歌が始まる。懐かしい「ZAK」の歌声が聞こえてくる。
ステージ上の学生たちは、歌に合わせて踊るだけのようだ。
「ZAK」は三年ほど前に大ブレイクを果たした。
今や国民的といってもいいくらいの人気者で、コンサートのチケットもファンクラブに入っていても取れないらしい。
僕はティッシュをそのままに、ふらふらと大学の中に入った。
ステージに近づくにつれ、音量が大きくなり、ダンサーたちの振り付けもはっきり見えるようになった。
真ん中に三人、その後ろに九人。
時にシンクロし、時にシンメトリーになりながら、次々変わっていくフォーメーション。
七年前の「ZAK」とバックダンサー「LAN」のフォーメーションと全く同じ。
「ZAK」の三人だけでなく、「LAN」の九人の動きも当時と全く同じに再現されていた。
「完コピだ……」
思わず声が出る。
学生たちと七年前の自分が重なる。
一番右端の背の高い子がいる場所。あそこが、僕の場所だった。
曲が終わって、次のステージが始まっても、僕はしばらく動くことができなかった。
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