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「企画って何を企画するんですか?」 「知らないわよ。餅つきをするのか、神輿を担ぐのか、何でもいいけどそういうのを考える会から参加しますってことでしょ。うちには若いのがおりますし、って言ったらしいから、浅木くん、あなたに回ってくるんじゃないの?」 「え? 僕?」 ガラスを拭く手が思わず止まる。 「だって若いのって、浅木くんと栄一郎くんくらいしかいないじゃない」 「オレのこと呼びました?」 接客ブースで顧客のデータを整理していたはずの栄一郎さんが、段ボールを抱えてすぐ後ろに立っていた。 「歳末イベントの話よ。若手に企画から参加しますって、言ったんだって」 「じゃあ、浅木で決まりだな」 栄一郎さんは、段ボールから新しいパンフレットを取り出して、陳列棚に手際よく差し込んでいく。 「なんで僕なんですか。僕、去年サンタもしましたし」 「そんなの、オレ、お前が来るまで5年はやったね」 ポンと肩をたたかれる。 「ま、お前はマジメすぎて要領悪いのがたまにキズだけど、裏を返せば丁寧ってことだから。商店街の人たちにもまれてくるといいよ」 「そんなあ」 「青年部が大きなイベントの企画受け持つってのは、オレも聞いた。焼き鳥屋の若大将、実行委員長に祭り上げられて、どうしようってぼやいてた」 仕事が終わって商店街で唯一開いている店が焼き鳥屋だ。たまに栄一郎さんや所長たちが飲みに連れて行ってくれる。 あそこの若大将は、「若」がつくほど若くはないような気がするけど。 「青年部って……」 なんですか、と問おうとしたときに、客が来た。 とたんに営業モードのスイッチが入る。 「いらっしゃいませ」の声を店内にいるスタッフ全員でハモらせながら、栄一郎さんが接客ブースに入り、客を誘導する。 池田さんは、栄一郎さんのやりかけていた仕事を無言で受け取り、テキパキとすすめる。 僕が、ガラスクリーナを片付けるため池田さんの後ろを通りかかったとき、小声で話しかけてきた。 「私、考えたんだけど。商店街でのど自慢大会とか、どうかしら?」 「今どきのど自慢ですか?」 「浅木くんアイドル顔しているから、人気出るんじゃない? ほら、最近よくテレビに出てる『ZAK』だっけ? その中にいてもおかしくないような顔だちしてるもん。一曲歌ったらいいんじゃない」 僕は、おおげさに肩をすぼめて、池田さんの後ろを通り過ぎた。
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