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「LAN」の高校生メンバー直斗は、年は同じだったけど、中一から事務所に入っている「大先輩」だった。あまり群れたりせず部屋の隅で黙々と本を読んでいるタイプだったが、ギターと歌がめちゃめちゃうまいらしいと、年上の先輩からも一目置かれる存在だった。 ユニットの他のメンバーに高校生がいなかったこともあって、僕とヒデ、直斗の同じ年三人は、急速に仲良くなっていった。 直斗は、キリリと整った眉毛と切れ長の目が鋭すぎて最初は近寄りがたかったけど、仲良くなるにつれて知っていく胸の奥のぶれない熱さがかっこよく、同い年なのに憧れずにはいられない存在だった。 「オレ思うんだけどさあ」 あれは、どこかのファーストフード店だったと思う。 ヒデがさっきから全然進んでいない問題集を手持ちぶたさにヒラヒラさせながら口をとがさせた。 「なんで、夏休みに宿題なんてあるんだよ」 「今さら何言ってんだよ。夏休みに宿題があることなんて、小学生だって知ってるよ」 僕が言うと、直斗も無言で笑った。 「だってさあ」 「ほら、四の五の言わず、とにかくやれよ。もう二学期始まるじゃん」 「なんだよ、もう」 ヒデは、ふてくされてジュースをすする。 直斗はもう、視線をさっきから読んでる文庫本へと落としていた。僕は英語の辞書を引きながらポテトを口に運んだ。 「直斗の学校は、『LAN』の活動オッケーなの?」 「まあな。事務所続けていけるところ、って思って高校選んでるし。平日に撮影とかあったら欠席することもあるって、話してある」 「そっか」 僕は、もう一本ポテトを口に運ぶ。 「LAN」の活動が始まってから、一か月と少し。アイドル雑誌の撮影(といっても、まだカラーじゃなくてその他大勢の白黒ページ)、「ZAK」のプロモーションビデオの撮影(これはバックダンサーでそれなりに登場)、「ZAK」のテレビ出演時のバックダンサー(もちろん、僕たちの紹介など一切なし。でも、結構テレビには映った)など、「仕事」と呼ばれることをするようになった。 それは、曜日や時間など関係なく組まれていく。 今は夏休みだから自由がきくけど、学校が始まれば、「仕事で学校を欠席する」こともあるだろう。 「慎也のとこは大丈夫なのか? 進学校だろ」 「……うーん。担任は応援してくれてるし、学校的にはオッケーなんだけど」 「けど?」 「親がさ」 「えっ? 慎也のとこ、親反対なの?」 ヒデが大きな目をクルクル動かして、話に割り込んでくる。 「成績落としたら、やめさせるって」 「マジ?」 「息子の輝かしいアイドル人生のスタートなのに? 成績落ちたらやめさせるう? ありえねえな」 「厳しいな」 直斗が小声でボソリと言う。 「親は、『LAN』の活動、反対なのか?」 「反対まではしてないけど、もろ手を挙げて応援してくれてるわけでもないって感じかな。特に母親は、今どきダンスは不良のすること、とか思ってるから」 「不良ねえ」 「死語じゃん、死語。令和に変わった日本に、不良なんて生物は生息してねーよ」 「頭、固いんだよ。うち、両親そろって銀行員だし」 朝、パリっと出勤する両親を思い浮かべる。起きたときはボサボサだし、朝食もバタバタでひどいものだけど、「行ってきます」とスーツで玄関に向かう姿は、よく言えばかっこよく、悪く言えば隙がなく、無言の圧力をかけてくる。 「でもさ」 直斗は片肘をついて、僕を見た。 「ほんとに反対なら『LAN』の契約の時に断われたのに、そうはしなかっただろ。だったら成績さえ下げなかったらいいことじゃん」 「簡単に言うなよ」 僕は、上目使いに直斗をにらんだ。
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