炎上前夜―燃えそびれた都市―

見えざる球体

　緊急速報！
　災害も事故も事件も病気も怪我も不和も、この世に起こる全ての不幸の根源は“ロスボックル”にあった！
　そう報じられたのは７月１５日のことで、あれからちょうど１週間が過ぎた。
　諸悪の根源――ロスボックルとは、瞬息移動する生命体で、ビー玉サイズの球体には、イガ栗のようなトゲトゲがあるという。目撃情報によると、今のところ、赤、青、黄と３種類存在していて、どうやら色ごとに別々の働きをしているらしい。

「あそこにいるぞ！」
　ニュースを放映しているテレビ画面からは、ひっきりなしにそんな声が聞こえていた。
　撲滅部隊の隊員たちが消火器大のボンベからのびたホースを握って、懸命に駆除剤を吹きかけているが、そのロスボックルなるものの存在を、裸眼視力１．５の俺の目がキャッチしないのはなぜなのか――
　ビー玉ほどの大きさだと言うから、肉眼で見えないはずもないのに、俺はまだ、一度たりともロスボックルを目にしたことがないのだった。