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店のドアが開き、上品そうなおばあさんが高齢者用のカートを引いてレジにゆっくり向かってこられる。
「すいません。」
「いらっしゃいませ、ありがとうございます。」
「いつもすいません。この荷物を送りたいんですけど。」
「送り状はお持ちでしょうか。」
「今日家に忘れてしまいましてな。一枚もらえませんやろか。」
「はい。元払いでよろしいですか?」
「はいはい、ありがとうございます。」
おばあさんに宅配便の送り状とボールペンを渡す。
レジの横にカートを止めて、鞄から老眼鏡を取り出すとおばあさんは送り状を書き始めた。よくこの店に来る、品が良さそうで丁寧なおばあさんだ。
だが、この人も殺し屋なのである。
一週間に一回二回と宅配を頼みに来られるおばあさん、品物の送り状には「漬物」と書かれていて毎回結構な重さである。カートに入れて持って来られるとはいえ、こんな重い物を頻繁に配送するもんだろうか?もちろんおばあさんは漬物屋さんではない。
考えられる理由は一つ。おばあさんが殺し屋なのだ。
中には恐らく武器が入っているんだろう。だから頻繁に送る必要がある。しかも配達業者に中身を悟られずにだ。きっとかなり凄腕の殺し屋なんだろう。
それにスズカワさんと同じように上品で丁寧だ。強者の余裕を感じる。
そうじゃなければただの武器商人の可能性もあったけど、おばあさんの貫禄や落ち着きっぷり、それなのに上品な雰囲気は凄腕の殺し屋のものなのだろう。
こんなお年寄りが強者の殺し屋とは。
いや、逆か。酸いも甘いも噛み分けるまで生き長らえてきた殺し屋だからこそ強者なのか。
「すいません、お願いします。」
「はい、ありがとうございます。」
おばあさんが送り状を書き終えたので、荷物を預かりお会計を済ませ、伝票の控えとレシートとお釣りを手渡した。
「すいません、よろしくお願いします。」
おばあさんは、丁寧にお礼を言うとカートを引いて店を出て行った。
小さく曲がった背中は、ボクには大きく見えた。
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