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おばあさんが帰った後、ちょうど電車が駅に着いたようで、
大勢のお客さんが店へと入ってきた。
学生服の高校生のグループ、スーツ姿のサラリーマン、主婦らしき女性の二人組、子連れの女性、昼間から酒を買って行くおじいさん。
来たお客さんのほとんどが、案の定殺し屋だった。
ちがったのは髪の毛を染めたヤンキーっぽい男の子グループだ。
あれは店内でうるさく品がなかったけれど殺し屋ではない。
お客さんの波が途絶え、ちょっと落ち着いてきた頃、
高く積まれた弁当とサンドイッチの入ったカゴが、コロ車に乗せられて
入ってきた。
「毎度ありがとうございますー。」
「ありがとうございますー。」
いつもの配達のお兄さんだ。夕方の便の弁当が到着した。
レジにあるボタンを押し、事務所と倉庫へ弁当到着の連絡をする。
裏ではピンポンパンポンとなり録音されたメッセージが流れているはずだ。
店の裏からスズカワさんとスミゾメさんが出てきた。
「すいません、レジ清算の準備するんで弁当の品出しお願いします。」
「りょーかいっす。」
「わかりました。」
僕は端のレジに『休止中』と書かれた小さい看板を出し、
後ろにある棚から配送の人に渡す伝票の入ったクリアケースを休止中のレジのところに出す。こうしておかないと渡し忘れるからだ。
「すいません、今日以上です。」
カゴを運び終えたお兄さんがボクに報告する。
「お疲れ様です。ありがとうございます。」
配送のお兄さんにクリアケースを渡し、今日の分の伝票が入ったクリアケースを受け取る。
「お兄さん、今日またパンとアイス買って行くん?」
スミゾメさんがお兄さんに話しかける。誰とでもフレンドリーに話せる彼女の姿勢は見習いたい。
「もちろん買ってきますよ。運転中の生命線なんで。」
「あ、じゃあ新商品いいよ。」
「アイスチョコ大福ですか?」
「そうそう!美味いやんな!?」
「あれやばいっすね。」
二人は楽しそうに話しているが、もちろんあのお兄さんも殺し屋である。
がっちりした体形と落ち着きと自信がそれを物語っている。
爽やかで優しそうな見た目なのに、なんでそんな裏稼業に足を踏み入れてしまったのか。いかん、また余計なことを考えてしまった。
「すいません、お願いします。」
お兄さんがアイスチョコ大福とソーセージのパンと缶コーヒーをレジに持ってきた。お会計を済ませ、伝票のクリアケースを持って出ていくお兄さんを見ながら、殺し屋っぽくない人ほど殺し屋なんだなと思った。
いや、殺し屋っぽくない人ほど殺し屋だってことは、殺し屋っぽい人は殺し屋っぽくないってことか?
また余計なことを仕事中なのに考えてしまった。
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