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「小夜ちゃん。本当に申し訳ないのだけれど、お金がなくてね。今日のお薬代、また今度にしてくれる?」
「うん。もちろん大丈夫だよ。おじいちゃんの具合、早く良くなるといいね」
私の薬の原料はほぼ、山で採れる薬草、人間が肉として食べる獣のいらなくなった臓物などである。
私の生活も正直苦しいが、それ以上に誰かが喜んでくれたり、元気になってもらえる方が嬉しい。父と母を病で亡くしているので、そういった気持ちの方が大きいのだ。
「その代わり、この間畑で採れたお野菜があるの。持って行って」
「えっ、いいの?ありがとう」
人参、だいこん、玉ねぎ、さつま芋、これでしばらくは食べるものには困らない。
「夜、遅くなってしまってごめんね。気をつけて帰ってね」
外を見ると、太陽はとっくに沈み、月が出ていた。重たい薬箱を背負い、おばあちゃんからもらった野菜を持って帰っている途中であった。
「あと、三十分くらいで家に着くかな」
そんな時だった。
暗くて良く見えなかったが、前方から男が歩いてきた。
黒い着物、腰には刀が差さっていた。
こんな時間に珍しいと思ったが、挨拶程度に軽く会釈をした。
すると、男は一旦私の前で立ち止まった。
「あなたの名前は?」
突然話しかけられ、驚いたが
「一条小夜です」
「そう。あなたが一条小夜さんでしたか」
男はそう言うと、私に近寄ってきた。
なぜ私のことを知っているのだろう。
その瞬間、男は腰にある鞘から刀を抜いた。
「えっ?」
思わず、声をあげてしまった。
「残念ながら、ここでお別れです。あなたの死は無駄にしませんので。安らかに眠ってください」
この人、本気だ。初めて自分に向けられた殺気のようなものを感じた。
殺される一一。
私は男に背を向け、逃げようと走りだした。
その刹那、男から振り下ろされた刀が後ろに背負っていた薬箱を切ったのだろう、その衝撃で私は転んでしまった――。
思い出した。
急に襲われたんだ。
私はここで殺されるの?
なぜ殺されるのか、私の血が必要とはどういうことなのか、わからなかった。
恐怖と痛みで身体を動かすことができない。
「さようなら」
うつ伏せになっている私に、男が刀を私の身体に向かって垂直に振り下ろそうとしていた。
ここで死ぬんだ。
私は目を閉じた。
その刹那ーー。
「やめろ」
少し低い、違う男の声がした。
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