3・噂

6/9
前へ
/90ページ
次へ
「決まってるじゃん。夏瑛も沢渡先生だよ。北川よりも。あたりまえでしょ」  美岬は北川に見えないようにウインクした。 「おれ、平野に訊いてるんじゃないんだけど」  まだ追及されそうな雰囲気だ。どうしよう。 「お、いたいた。北川、お前、もう課題終わった?」  さいわい同じクラスの男子がやってきて北川に話しかけたので、靭也の話は立ち消えになった。  夏瑛はほっと胸をなでおろした。 「しかし、北川もかわいそうな奴だね」 美岬がふーっと息をついた。   ***  5時間目が終わると、とたんに美岬に手を掴まれ、カフェテリアに連れこまれた。 「ランチのときは邪魔が入ったから、もう気になって、気になって。午後の講義、ほとんど耳に入ってこなかったよお」 「別に……とくに話すことないけど」 「だめだめ。ちゃんと馴れ初めから話してくれなきゃ」  話さないと納得してくれそうにない。  仕方なく、靱也と出会った日のことから話しはじめた。  話を聞き終えた美岬はふーっと息を()いた。 「でも、小6から思い続けてたって、何ていうか、夏瑛らしいといえばそうだけど、今どき、あんた、いつの時代の人? って感じだね」
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

319人が本棚に入れています
本棚に追加