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「あっ、秋庭先生だぁ。あたしのタイプはあの先生」美岬がささやく。
「なんかお茶目で可愛いし、髭(ひげ)が渋いし、それに先生の描く水彩画の透明感、しびれるのよね。もう今から先生のゼミに入るって決めてるんだ」
「秋庭先生って、……わたしの叔父さんなんだ、実は」
「あっ、だから先生〝夏瑛〟って呼んだのか。いいなあ。ねえ、紹介して」
わかってはいたが、美岬はなかなか独特な感性の持ち主だ。
「ぼく、これからちょっと急ぎで出なきゃなんなくてさ。これ、沢渡先生のところに持っていってくれるかな」と大きな茶封筒を渡された。
「実は2、3日渡すのを忘れててさ。急ぎだから今日中に持って行ってほしいんだ。別館のアトリエにいるはずだから」
「うん、いいよ」
美岬が横から肘でつんつんつついてくる。
「あ、叔父さん。この子、平野美岬。同じクラスの子なの」
「おお、平野くんだろう。覚えてるよ。そうか。夏瑛のこと、よろしく頼むよ」
にっこり笑ってそう言うと、大急ぎでばたばたと去っていった。
「キャー、覚えてる、だって! やったー」
美岬は顔を真っ赤にして言った。
叔父さん、だいぶ惚れられているみたい。
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