319人が本棚に入れています
本棚に追加
「美岬、沢渡先生のところ、一緒に行ってくれる?」
「ああ、ごめん。あたしもう帰んなきゃいけなかったんだ。小学生の稽古を手伝う日だから」
時計を見て、美岬はあわてて立ち上がり、荷物を抱えた。
でも、正直に言えば、ちょっとほっとした。
靭也のところに行くのはひとりのほうがいいに決まっている。
午後5時半をまわったところだった。
窓から射しこんでいた強烈な西日は傾き、あたりはすっかり薄紫色に染まっていた。
靭也がいる別館は本校舎から道路を隔てた向かいの建物だった。
校庭を足早に横切っているとき、声をかけられた。
「あっ、原田さーん。今、帰り? あれ、平野さんは? いつもべったりなのに」
さっき、話題にあがっていた北川だ。
カールした薄茶色の髪が、ふわふわと風に吹かれて、逆光を受けてきらめいている。
目が大きい、というより黒目が大きくて印象的。
このふわふわの髪型とまんまるな黒い目はちょっとトイプードルっぽい。
美岬いわく、美大ではわりと珍しい存在のアイドル好き女子の間では、結構人気があるらしい。
最初のコメントを投稿しよう!