2・アトリエにて

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「美岬、沢渡先生のところ、一緒に行ってくれる?」 「ああ、ごめん。あたしもう帰んなきゃいけなかったんだ。小学生の稽古を手伝う日だから」  時計を見て、美岬はあわてて立ち上がり、荷物を抱えた。  でも、正直に言えば、ちょっとほっとした。  靭也のところに行くのはひとりのほうがいいに決まっている。  午後5時半をまわったところだった。  窓から射しこんでいた強烈な西日は傾き、あたりはすっかり薄紫色に染まっていた。  靭也がいる別館は本校舎から道路を隔てた向かいの建物だった。  校庭を足早に横切っているとき、声をかけられた。 「あっ、原田さーん。今、帰り? あれ、平野さんは? いつもべったりなのに」  さっき、話題にあがっていた北川だ。  カールした薄茶色の髪が、ふわふわと風に吹かれて、逆光を受けてきらめいている。  目が大きい、というより黒目が大きくて印象的。  このふわふわの髪型とまんまるな黒い目はちょっとトイプードルっぽい。  美岬いわく、美大ではわりと珍しい存在のアイドル好き女子の間では、結構人気があるらしい。
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