2・アトリエにて

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  「北川くん。美岬はもう帰ったんだ。わたしはこれから用事で別館に行くところなの」  それほど上背のない北川の顔がすごく近く感じる。  はじめて会ったときからそうだったけれど、この人のパーソナル・スペースはかなり狭い。 「用事って長くかかる? 良かったら一緒に帰ろうよ。別館まで一緒に行ってあげるよ」 「えっ、いいよ。そんなの」 「だって、知ってる? 原田さん。別館って、出るらしいよ」 「何が?」 「出るっていったら、幽霊に決まってるでしょ。昔、卒制に悩んだ学生がさ、自殺したんだって、あそこで。それからいろいろ目撃した人がいるって話だよ」 「北川くん、何でそんなこと知っているの?」 「姉ちゃんがここの卒業生で……だいぶ、年離れているけど。ねっ、だから、一緒に行ってあげるってば」と言ってにっこり笑った。 「いいって。用事は……長くかかるかもしれないし……」 「ちぇっ、引っかからないか。もっと怖がって『お願い、北川くん。いっしょに来てー』とでも言うかと思ったのに、原田さん、見かけによらず気が強かったりして」 「えーっ、じゃあ、嘘なの? 今の話。本当かと思ったじゃない」
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