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北川はとても気さくで話しやすい。
人見知りする性質の夏瑛も、北川が相手だとなぜか気負わずに話せた。
ついつい軽口をたたいている自分に驚いた。
「自殺したっていうのは嘘。でも狂言自殺はあったらしいよ。だいぶ騒ぎになったって、姉ちゃんが言ってた。なんでも男に捨てられた腹いせにそいつの前で自殺しようとした女がいたんだって。まあ、本当に死ぬ気はなかったんだろうけど」
そんな話をしているうちに、裏門まで来ていた。
通りの向こうの別館の入り口で靭也が煙草を吸っていた。
こっちを見ている。
だが、夏瑛が目で合図を送ろうとしたら、ついっと後ろを向いて建物のなかに消えた。
「ねえ、ここでいいよ。じゃあ、また、明日」
まだ、何か言いかけていた北川を残して、夏瑛は走って道路を渡った。
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