2・アトリエにて

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***  たしかに幽霊が出てもおかしくなさそうな建物だ。  2階建てで、1階の突き当たりに吹き抜けになった板張り床のアトリエがあり、地下には写真の暗室があった。  今は授業で使用しておらず、靭也のほかに出入りする人はほとんどいなかった。  薄暗い廊下を抜け、アトリエの扉をノックする。  返事がないのでそっと扉を開けて中に入ると、靭也がひとり、大きなキャンバスと向き合っていた。  靭也が絵を描くときの、いつもの張りつめた空気がアトリエに満ちている。  深い蒼色を背景に抱きあう男女……男性に抱きすくめられた女性がこちらを向いているけれど、まだ表情は描かれていない。  イーゼルの上の絵はとても静謐(せいひつ)な印象なのに、同時に燃えるような官能が内在していて、それが靭也独自の世界を形成している。  相反するものが反発せずに、かえって相乗効果をあげていて、人を虜(とりこ)にする魅力を醸しだしている。  〝新進気鋭の画家〟というコピーは誇張でもなんでもない。  靭也の才能は正真正銘の本物だ。  そんな人が自分の彼だという誇らしい気持ちはあったが、同時に自分との差をまざまざと思い知らされ落ち込む気持ちもあった。
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