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靭也のように、人のまねではない、自分だけしか描けない絵を見つけられるだろうか。
どれだけの時間を費やせば見つけられるのだろう。
もしかしたら一生かかっても無理かもしれない。
そう思うと足元にぽっかりと穴が空いたようで心もとない気持ちになる。
けれど、必死で探さなければ。
糸口だけでも掴みたい。
でなければ……この先、靭也と一緒に歩んでいく資格がないんじゃないか……。
付きあうようになってからいつも心の片隅に、そんな不安が燻っていた。
靭也に告白されて、はじめはただ有頂天なだけだった。
けれど、日が経つにつれて、自分が本当に靭也にふさわしいのだろうか、いつか見限られてしまうのではないかといった、漠然とした思いに囚われるようになった。
靭也はいつでも優しい。
不安を感じさせるようなそぶりはまったくない。
でも優しくされればされるだけ、夏瑛は彼を失ったときの怖さを想像して、身震いしてしまうのだ。
靭也がゆっくりこちらを振りかえった。
少し不機嫌そうな表情で。
「……綺麗な蒼」
同じ絵の具を使っているはずなのに、なぜこんな色が出せるのだろう。
「この作品はどっかに出すの?」
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