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1・芽生えの季節
4月1日。
もう春とはいえ、まだまだ肌寒い入学式当日。
広い講堂には五百人を超える新入生が集まり、学長の挨拶に耳を傾けていた。
「諸君、入学おめでとう。これからは本学の一員であるという自覚を持って、勉学と制作に力いっぱい励んでください――」
あとどれぐらいかな。
原田夏瑛はいならぶ来賓を横目で数える。
ふー、まだまだかかりそう。
あれから、約1年の受験生生活を経て、夏瑛は晴れて叔父、秋庭啓司の務める美大に進学を果たした。
これからの大学生活への期待とほんの少しの不安で、夏瑛の心ははちきれそうだった。
壁際に並ぶ教職員のなかに靭也もいる。
沢渡靭也、この大学で助手兼講師を勤めているのだからそこにいるのは当然だけれど、彼は夏瑛の最愛の人でもあるのだ。
遠目にも靭也の容姿は際立っている。
均整の取れたスラリとした身体つきで、ダークグレーのスーツをすっきりと着こなしている。
「ねえ……あの先生、やばい」
「うわ、美形」
近くに座っている子たちが靭也を見て小声で話す声が聞こえてくる。
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