2・アトリエにて

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「ああ、立花賞って知ってる?」  立花賞は具象絵画を対象にした名高い賞で、毎年、個展などで注目を浴びた新人画家が候補となる。  過去の受賞者には著名な画家が名を連ねており、俗に「絵画の芥川賞」とも言われている。 「うん、もちろん」 「そろそろ挑戦してもいいかなと思って。それで立花賞を視野に入れた個展を計画してるんだ。まだ、習作を描いている段階だけどね」 「少し見ててもいい?」 「ああ、かまわないよ。そうだ、夏瑛。ちょっと来て」  そう言って、手招きされた。 「なかなかこの表情が決まらないんだ」  女性の顔を指して靭也が言った。  いつになく悩んでいる様子に見える。  そんなこと滅多にないことだ。 「夏瑛、ちょっと手伝ってくれる?」 「いいけど。でも、何を手伝うの?」 「こっちに来て」  靭也にいざなわれて隣の準備室に入ったとたん、すっと手を掴まれて抱きすくめられた。 「夏瑛の表情を参考にさせて」 「さ、沢渡……靭にいちゃん、だめだよ。誰かに見られたら……」 「こんなところに誰も来ないよ」  靭也は夏瑛をすっぽりと包みこむ。  絵のなかの男性のように。 「でも、大きな声を出したら、誰かに聞こえるかもな」
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