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「いやあ、緊張した。肩こったよ」と言いながら、靭也は首を回している。
「わたしも一生分ぐらいどきどきした」
「それはちょっと大げさだな」
いつもなら家まで20分ほどの道程だが、結局、倍ほどの時間をかけて夏瑛の家の前に到着した。
つま先が凍えすぎてもう感覚がない。
でも、あと5時間だろうが10時間だろうがこのままでも平気だ。
靭也と一緒なら。
「今日はもう遅いから、また改めてあいさつにくるよ」
「うん」
だが靭也は夏瑛を離そうとしない。それどころか手に少しだけ力がこもる。
「靭にいちゃん?」
真っすぐな視線が夏瑛を刺す。
「夏瑛……本当におれでいいの?」
「えっ?」
「おれたち、だいぶ年離れているし……夏瑛から見たら、充分おじさんだろ。
それに、おれは本当に絵を描くためだけに生きているような人間だから、休みの日と言えば、美術館に行くぐらいで、面白いところにも連れて行ってやれないし、
それに――」
まだ何か言おうとしていた靭也をさえぎって夏瑛は言った。
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