1・芽生えの季節

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「靭にいちゃん、初めて会った日のこと、覚えてる?」 「ああ。夏瑛はたしか、小学生だったよな」 「うん、小6。ルドンの画集を一緒に見ようって言ってくれたときから、ああ、わたし、この人に会うために生まれてきたんだって思ったの。  何も知らない子どもだったけど、そのことだけはわかった。  あの時からわたしには靭にいちゃんしかいなかっ――」  今度は夏瑛が最後まで言い終わらないうちにさえぎられた。  言葉ではなく行動で。  靭也の胸に抱きしめられていた。  彼が手にしていた紺色の傘がふわりと雪の上に落ちた。 「わかった……ちょっと確かめたかっただけだよ。  それに今さら「嫌」って言われたら、本当は困るけど」  靭也は夏瑛の頬を両手で包み、夏瑛……とささやきながら自分のほうに向かせた。 「このぐらいは、先生も許してくれるよな」    
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