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「靭にいちゃん、初めて会った日のこと、覚えてる?」
「ああ。夏瑛はたしか、小学生だったよな」
「うん、小6。ルドンの画集を一緒に見ようって言ってくれたときから、ああ、わたし、この人に会うために生まれてきたんだって思ったの。
何も知らない子どもだったけど、そのことだけはわかった。
あの時からわたしには靭にいちゃんしかいなかっ――」
今度は夏瑛が最後まで言い終わらないうちにさえぎられた。
言葉ではなく行動で。
靭也の胸に抱きしめられていた。
彼が手にしていた紺色の傘がふわりと雪の上に落ちた。
「わかった……ちょっと確かめたかっただけだよ。
それに今さら「嫌」って言われたら、本当は困るけど」
靭也は夏瑛の頬を両手で包み、夏瑛……とささやきながら自分のほうに向かせた。
「このぐらいは、先生も許してくれるよな」
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