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そう言ってる間にも刻一刻と開店は近づく。開店日は春分の日。この日魔女たちは植物の種を蒔く。先生は実店舗という種を蒔いた訳だ。当然ななえ抜きでその日を迎えた。
祭壇にはパステルカラーのキャンドルが灯され、店内をドライフラワーで飾った。
初日の来客は主に身内だった。前に間貸ししてくれた着物メイドの人たちや、先生のサイン会などで度々世話になっている駅前書店の人たちなど。
魔女のカフェというコンセプトだからホールを回すのは先生だけ。吉方はキッチンチーフのような立場ゆえ表には出ず、喜助と俺は一般的な魔女のイメージとはかけ離れているのでキッチンの手伝いをしていた。俺は裏方の方が好きだから良いのだが、ジェンダーバイアスをこの時は感じた。
土間から二段上がった六畳ほどの座敷の机をこの日は撤去し能舞台に見立てた。そこでみかるが翁を舞った。以降サバトのイベントでは毎度奴による翁舞が披露されるようになった。
今でこそ地元メディアによく取材される店舗だが、当時は比較的静かだった。でも俺たちはこのリアルお店屋さんごっこがかなり楽しかった。
喜助は部活で出られない日も多かったが、一人でもここに通い詰め先生の手伝いをした。元々、ほんの一年ほど前までずっと一人で行動していたから連れバイトである必要はない。
そんな楽しいバイトの真似事について、ある日喜助や開店準備をしてくれたバスケ部の奴らと学校の廊下です談笑していた。そうしたらいきなりあの人が殴り込みに来た。
「楽しそうですねえ」
「えっ?」
「私がいなくなっても毎日変わらず楽しそうで、むしろキラキラしてて充実してて何よりですねって言ってんの!いけしゃあしゃあと生きてる所を見せつけられるこっちの身にもなってよ!」
「は?」
なんか急にキレられた。二度と関わってほしくなかったんちゃうんか?バスケ部の連中はうわ怖、と言って立ち去った。俺と喜助はドン引きしてしばらく立ち尽くした。
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