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魔女カフェ始動?
ヒメミコ先生の家に俺とななえと吉方ケイコが集まるようになって何週経った頃だろうか、サウィン(ハロウィン)が近かった気がする。松の実のケーキを食べながら吉方がいきなり言い出した。
「せんせー、せっかくおいしい野菜とかハーブとか作ってるんやから店とか出したらどうですか。うちらだけで食べるのはもったいないですよ」
「店?ワタシが?」
「カフェとかやればいいのにと思うけどどうでしょう?無農薬有機栽培!よくあるじゃないですか。」
よくあることを今更始めてどないするんや。
「じゃあこういうのは?体にいいランチや願いに合ったハーブティーをいただきながら占いの鑑定もするの!日本の古都奈良に西洋魔女カフェ!きっと話題になる!」
名案かクソ案かといえば商売としては名案だと思った。吉方はその後も己のビジネスモデルもとい妄想を語り続けた、先生そっちのけで。
ただ魔女の知恵をそうやってコンテンツ化して消費させるような姿勢はどうかと思う。俺らみたいに学問として興味のある連中には開かれるべきだが、敷居を過度に下げると…たとえば神社に行くだけで目標に向かって何の努力もしないような人間が寄ってくるのは目に見えている。前に本屋のサイン会場で弟子にしてくれと言った俺に悪態をついた先生の気持ちはこうだったのかもしれない。今なら少し分かる。
しかし先生は意外な反応だった。
「いいじゃないか、それ。」
「先生、そんな商売に走る必要ありますか」
「執筆業は自分のための知識の整理みたいなものだからな。それを後世に引き継ぐという目的ならやってみる価値はあるかもしれない。問題はどうやってこの家を店にするかだな…」
帰り道三輪駅までの道中、一番身近な先輩魔女であるななえに聞いてみた。
「半自給自足とはいえ大変なんやろうか、月々の支払いとか。」
「ちゃうと思う。」
「どこが?」
「先生は魔女の知恵を後世に引き継ぎたい…一心だから。先生は長く生きているから」
「その設定信じてるん?」
「信じてないけど、信じる。その方が素敵なイメージが湧くから。薫くん、魔術はイメージすることが大切やからそういう世界観も無駄じゃないんやて」
「俺は未熟者やな。」
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