金星のハーブ

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金星のハーブ

近鉄奈良駅の裏手、やすらぎの道沿いの雑居ビルにそのカフェはあった。着物メイドカフェなどという奈良にそんなトンチキな業態があるのが意外。吉方の伝でその店舗の一角でヒメミコ先生は占い屋をされるようになった。さらにその奥の狭苦しい厨房で俺はハーブの調合をしている。 先生が鑑定をし、客の悩みに合ったハーブティーを出すという至ってシンプルなシステムである。そのハーブティーの調合をタダで手伝っている。これは部活のようなものだから先生以外は一銭も受け取らないことになっている。 「お待たせしました、金星のハーブティーです♪」 吉方がテンション高く給仕している。 ヨーロッパの古いハーブ学ではハーブ一種類一種類が火地風水の四大属性に分かれたり、水星から土星と月と太陽といった惑星の支配を受けると考えられている。金星ということはたぶん恋愛系の相談だろう。 先生が休んでいいぞと言ったので外の空気を吸おうと店から出ようとした。 「あんた!」 吉方がキレてきた。 「だからここは男子禁制って言ってるやろ?ここのコンセプトは?お嬢様たちのカフェ!」 たしかに女性客しかいない。 「しかもそんなヨレたスウェットでホールに立ち入るなんて。厨房で休んどきぃ。」 「ずっとあんな狭いとこおったら息詰まるわ」 「裏方でもせめて服はなんとかしたら?かわいいななたんに見合う男でいろよ。せや、うちが選んだろか?」 着物メイドがどないなもんなんかはさっぱり分からんが、ななえに目をやると派手な柄の着物を着ていた。半襟がレースだったり頭にもなんかでかいリボンが着いていて女子ってこういうの好きやなぁ…。 「うん…なんか派手やな」 率直な感想を述べただけなのに吉方からは呆れられ、ななえはよく見ると目に涙を浮かべていた。 分からん、まじで分からへん。 とにかく居心地が悪かった。お嬢様たちの前でくだらない小競り合いしてんじゃねぇよ、という先生の言葉で収束した。
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