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ヒメミコ、三輪からならまちへ
「喜助が部活休むとか明日は奈良に雪が降るなぁ!」
「どうしても今日しか会ってくれへん人がおって。その人に託すしかないねん、スマンな。」
「世界の命運がかかってるんやな…」
「まあそうかもしれへんな」
西山喜助はいつもの教卓付近で中島と話していた。特に目立った大会を控えていなかったのもあるが、天平魔術学校バスケ部の時期主将とも噂されている喜助が部活を休むのは相当珍しい。
ちなみに奈良盆地の冬は底冷えのくせして雪は一年に一度も積もらない。
「今日しか会ってくれない人」とは近鉄奈良駅東改札から階段を登ったところにある行基菩薩像の噴水前で待ち合わせをしていた。中高年の男性と、そしてヒメミコ先生。喜助は知り合いだというその男性を先生に紹介した。
「まあこんな所で話すのも何ですから、早速行きましょう。」
男性は二人を餅飯殿商店街から道一本入った所にある古い町家へ案内した。
そう、その物件はー 前にみかるが俺に話した空家のことだった。
「ここは元々私の実家なんです。でも母が亡くなって、古家は管理も大変だから私ら家族はよう住まんのですわ。とは言うても大事な場所やから誰彼なしに譲りたいもんでもないんですよ。」
男性は語りだした。
「ただ西山貫首のご子息のお知り合いの方やったらぜひ見てもらいたいと思うんですね。喜助くんも店舗に関わらはるそうやし。」
「そう思っていただけるのは僕も光栄です。先生、どうします?」
「イメージをふくらませるのに少し時間をもらえませんか。」
先生はぶつぶつ言いながら土間をうろうろしていた。
男性は東向商店街で奈良漬屋を営んでいる。その商店街と西山家には深い関わりがあり、そもそも東向とはかつてその寺に背を向けないよう通りの店全てが東を向いていたことに由来する。
以上がこの物件との出会いである。開店準備中に喜助から聞かされた。
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