ヒメミコ、三輪からならまちへ

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結局先生は三輪の家の畑以外を売った。そしてこの町家の二階を住居にし、一階の土間と和室を店舗にすることにされた。 奈良漬屋から譲り受けたあと清掃業者が入り浄化の儀式を行い、開店準備は喜助率いるバスケ部の連中と吉方率いる料理手芸部の奴らを中心にやっている。とはいえつい最近まで人が住んでいた家だから古民家にありがちな大規模修復作業はほとんどなく、襖を取っ払って一間続きにしたり家具を作ったりと素人の日用大工の範疇である。技術家庭科って案外役に立つんやな…。 「うぉーい男子たちぃ!とりあえず食べてみてよ!」 料理部はカフェの試作品を作っていた。 「腹へってたから助かるわー」とかほざいて完全に試食会の主旨を見失っているが気持ちはわかる。 内容はいちいち覚えていないがハーブをふんだんに使ったイタリアン的な物だった気がする。 「うまい!」 「じゃあ次はこういうのはどう?無農薬の野菜を使ったポトフ」 「うまい!」 「デザートのアップルシナモンケーキもあるよ」 「うまい!」これ試食会の意味なくないか?空腹の男子高校生集団はもっと安物を食ってりゃいいと思う。 「あかんわコイツら話にならんよー。」 そういや約束の奈良漬は使ってたんだろうか? 無難にポトフとキッシュのセットが採用された。もちろん料理部が内輪で決めて試食会はあってもなくてもよかった。 肝心要のオーナー店長は物販スペースで扱う魔術具をななえと作っていた。 「畑の野菜はカフェでは使わないんですか?あれすごくおいしくって、色んな人に知ってほしいのに。」 「ななえは本当にうちの野菜が好きだね。ありがたいがそんな大規模な畑じゃないからね。ただ魔術用ハーブはうちで穫れたもんだ、安心しろ。」 祭壇を囲んでハーブを調合しポプリにする。キャンドルを作る。魔術用の簡素な人形を作る。ひとつひとつできる毎に完成品をセージ香の煙にくぐらせる。 「いいなぁ、俺もその作業したいんですけど。いいですか?」 「いいぞ、薫。オマエもやりな。」 吉方が余った板に何か書いていた。看板にするのだろうか。女子特有の丸々した字で「ハーブ魔女カフェ・ヒメミコのまほうやさん」と書かれていた。
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