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一 優しい故郷
「ただいま」
「おかえり」
実家の家族の笑顔。聖子は重いバッグを玄関に置いた。そして母の声がした居間へと進んだ。
「これ。お土産」
「気を使わなくていいのに。あんたの部屋、掃除しておいたよ」
「ありがとう」
都会の仕事が無くなった聖子。田舎に帰ってきた。田舎が嫌で出て行ったはずの彼女。しかし、今は疲れていた。
仕事も辞めてしまった聖子。仕事探しの前に今は、のんびりしていた。そんな聖子。地元にある商店に顔を出した。
「お。聖子か」
「翔ちゃんか。元気そうだね」
「おう。本当に帰ってきたんだな」
高校時代交際していた彼。今は実家を継いでいた。その指には指輪はない。聖子は一応、彼を見た。
「翔ちゃん。結婚は?」
「まだだよ。なんだよ。お前がしてくれるのかよ」
「何を言っているのよ」
冗談話。それでも聖子はドキドキした。
ここは田舎。都会の大学を出て都会で就職した聖子。自分で言うのも何であるが、同級生達はどこか幼く、自分は垢抜けていると感じた。
さらに。ここでは女性が少ない。そのため、聖子はモテていた。これに聖子は気分を良くしていた。
確かに見かけが良い方だと思う。しかし美容のため食べ物を制限したり、筋トレや節制もしていた。この見かけを保つために努力はしていたが、それを口にするのは聖子のプライドが許さなかった。
毎日誰かに誘われて、食事をするだけである。しかし未婚の男性をその気にさせて女王様気分。都会を離れて良かったと楽しくしていた。そんなある日。聖子は自転車で移動していた。
「聖子ちゃん」
「茜?元気だった?」
自転車に乗っていた聖子。車の同級生に声をかけられた。
「あのね。聖子ちゃんが帰ってきたから。女子会をやろうってみんなで話しているんだよ」
「女子会、か」
田舎の女ばかり。集まっても話が合わない。聖子、遠慮することにした。
「いいよ。私なんかのために」
「そう?じゃ。今度ね」
茜。笑顔で去っていった。その後。聖子は翔太から話を聞いた。
「え?男子も来てたの」
「そうだよ。みんなお前のために集まったのに。どうして来なかったんだよ」
「だって」
女子会だから行かなかったとは言えない聖子。遠慮したと言い訳した。
「そうか。部活の男子の先輩も来てたんだぞ」
「そうなんだ」
結構憧れていた男先輩。彼には会いたかった聖子。行かなかったことを悔やんだ。そして茜に話に行った。茜の実家はクリーニング屋。聖子は服を出す口実で顔を出した。
「茜。この前の女子会だけど。男子ってどう言うこと?」
「あ?ごめんごめん。人数が集まらないから。男子も誘うことになったんだよ」
「そうなんだ」
納得した様子の聖子。茜はごめんと何度も謝った。
「今度は呼ぶから」
「うん。都合つけるね」
しかし。一向に呼ばれる気配はない。聖子。翔太に聞いてみた。
「え。昨日も飲み会あったよ。お前は返事がないって言ってたし」
「連絡なんか、なかったよ?」
おかしいなと携帯を見るとやはりない。聖子、怒りを抑えて茜がいるクリーニング店にやってきた。
「どう言うこと?」
「え?おばさんにメモを渡したよ」
「母に。って言うか、どうして携帯じゃないのよ」
「私の携帯が壊れちゃって。だからおばさんに渡したんだよ」
茜の真顔。聖子、ここは収めるしかなかった。そんな茜。聖子に尋ねた。
「ね、お仕事ってどうするの。探しているんでしょう」
「うん」
「どんな仕事?」
「事務かな。一応」
「事務か。あのね。農家の人がね、今の時期だけのお仕事で」
「茜。私はそう言うのはやらないから」
「……そう」
この申し出を拒否した聖子。実家に帰った。母に尋ねると確かに茜に野菜をもらったと話した。その紙袋に小さなメモが入っていた。内容は飲み会の誘い。聖子。怒りを抑えるしかなかった。
意地悪されているような。そうでないような。聖子はそう思っていた。
一 完
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