二 優しい友人達

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二 優しい友人達

「こんにちは」 「あれ。聖子か。お前は行かなかったのかよ」 「何のこと」 朝の商店。翔太。驚き顔で聖子を見た。 「農家の方でさ。ドラマのロケをしてるんだけど。女のエキストラ募集で。この辺の女達はみんなそれに参加しているんだぞ」 「え。本当に?」 「ああ。でも、もう撮影は終わったんじゃないのかな」 ほら、とみると。外には茜が上級生の女子達とやってきた。 「あ。聖子ちゃん」 「聖子だ。なんで来なかったのよ」 「そうよ。芸能人と写真撮れたのに」 「だって。私は誘われてないよ」 すると。茜は笑みを讃えて首を横に振った。 「ううん。ほら。あの日、誘ったじゃない。でも、聖子ちゃんは事務仕事が良いって」 「あの時に?」 確かに。農家の話が出ていた。聖子。背中に汗をかいていた。そんな思いを知らず、同級生達は話だした。 「今度は聖子も誘うよ」 「うん。映画だもの。私たちよりも美人がいいでしょ」 「そ、そんなことないよ」 遠慮する聖子。同級生はそんな聖子を褒め出した。 「いいえ。聖子ちゃんは私たちの憧れだもの。今はね。良い事務仕事を探しているんだよ」 茜の笑顔。嬉しいはずなのに。聖子の心はざわついた。 「いいよ。自分で探すから」 「そうなの?」 「うん。みんなありがとうね。また、誘ってね」 聖子。怖くなって家に帰った。 そして後日。母から話を聞かされた。 「あんた。事務仕事を断ったんだって?」 「何の話」 「うちの地域の代議士さんが秘書を探していて。お前はどうだって茜ちゃんが聞かれたらしいけど、お前、断ったそうじゃないか」 「え」 「全く。家でゴロゴロして。何もしないくせに」 「待って。私はそんな」 怒りの母。聖子は呆然としていた。 聖子。今の状況を確認するため、夕方、翔太を呼び出した。 「その話か。お前の気のせいじゃないのか」 「悪意があるよ。絶対」 女友達。彼女達の態度。聖子は怖くなっていた。 女友人の経営する美容室で髪を切れば前髪を短くされ、彼女は手元が狂ったと誤魔化した。女友人の実家の温泉に入っていると、なぜか男性従業員が清掃に入ってきて驚いた。他にも偶然にしてはおかしなほど、嫌な思いが続いていた。 「っていうかさ、そういうことをされる、心当たりってないのか」 「心当たり?ないよ、そんなの」 「そう、か」 翔太。寂しそうに缶コーヒーを開けた。 「確かにお前の言う通り。他人から見たらいじめではないかもしれないけど、本人は傷ついているってことがあるよな」 「そうでしょ?これがそうよ」 聖子。涙を流した。翔太。それをじっと見ていた。 「……辛いよな。いじめられて。それをわかってもらえないって」 「そうよ。これは犯罪よ?ひどいわ」 「そうだ、ひどいよな」 翔太。優しく聖子の肩を抱いた。聖子が泣き止むまで、抱いていた。 この数日後。聖子の元に他の女同級生が顔を出した。 「あのね。女だけで集まるんだけど、聖子も来ない?」 「あなたは来るの」 「うん。みんな来るよ。金曜日の夜7時。公民館でね!」 場所が気になる聖子。他の同級生にも探りを入れた。同じように詳しい説明がない会。それでも呼ばれないよりもマシだと思い、出向いた。 「あれ。言ってなかったかな。みんな浴衣だよ」 「聖子ちゃんだけ、伝えてなかったのかな」 この夜は地元の娘達で浴衣を着る夜。私服の聖子。帰ろうとした。すると茜が引き留めた。 「私。持ってきたの。それに。今日は着付けの先生が来ているし」 「でも私は」 いいからいいから!と押し切られた聖子。浴衣になった。可愛い浴衣。これに少し気分を良くしていた。 「さて。みんなで提灯を持って。移動しましょう」 「移動って、どこに行くの」 「秘密よ。さあ。こっち」 夜道。女達はぞろぞろと海に向かって歩き出した。逃げられない聖子。着付けをしてくれた女先生と一緒に歩き出した。 つづく
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