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 学校までの登校路は平坦で灰色で何もない。  しかしそれを確認したのは本当に久しぶりだった。  彼女がいない朝なんてなかったから。  寝坊だろうか。それとも風邪?  下駄箱に靴を入れながら考える。色々と推測はできても、クラスの違う僕には確かめようがない。  教室に入って、自分の席につく。  いつも通りのはずなのに何か物足りない気持ちになる。    調子が狂うな。  輪郭のはっきりしない何かを抱えたまま、始業のチャイムが鳴った。 *** 「おい唐沢、おまえ大丈夫か?」 「え?」  午前の授業を終え、昼休憩も半分を過ぎた頃、隣の席の男子に声をかけられた。やけに心配そうな表情を浮かべている。 「そりゃショックだよな。おまえら仲良さそうだったし」 「え、ちょっと待って。何のこと」 「ん? 朝比奈の転校で落ち込んでんじゃねえの?」    その言葉に、僕は耳を疑った。 「え、転校? なんで」 「あれ聞いてねえの? あんなに仲良さそうだったのに」 「……いや、なにも」 「あいつ前から一人暮らしだったんだけど、今日家族のとこに戻るんだってさ。どこ行くかは知らねえけど結構遠いとこっぽい」    彼は朝比奈さんの事情を事細かに説明してくれた。けれど、その話はほとんど頭に入ってこなかった。  一人暮らしだったのかとか、いつから決まってたとか、なんで話してくれなかったとか、そんなことどうでもよかった。  朝比奈さんが転校する。この町からいなくなる。  その事実だけが頭の中でぐるぐると暴れ回っていた。  家庭の事情だ。仕方のないことだと思う。  でも、だからこそ悔しい。僕の力ではどうすることもできないのが悔しい。  何でこんなことするんだよ、神様。   「いや、まあでも唐沢が気付けなかったのも無理ねえよ」  言葉を失った僕に、彼は気遣うように優しい声を出す。 「だってあいつ――」  続く彼のセリフを聞いて顔を上げた。  そして思い出したのは、いつかの彼女の言葉。 『神様のせいにしないで』  考える前に、教室を飛び出した。
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