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「……なんで」  膝に手をついて息を切らした僕の頭上から朝比奈さんの困惑した声が聞こえる。 「……今日は暑いね」 「きみだけでしょ。汗だくだよ。それより学校はどうしたの?」 「天気が崩れそうだから早退した」 「すっごく晴れてるけど」  雲一つない空の下で彼女は苦笑する。  ホームから電車到着のアナウンスが聞こえてきた。 「もう行かなきゃ。来てくれてありがとね」  彼女は微笑みながらそう言った。  でも僕が見たいのは、そんな顔じゃない。 「ごめん、君に嘘ついてたことがある」  僕は入場券を買って改札を抜ける。  彼女の隣に並んでホームの真ん中を歩いていく。 「嘘?」 「うん」  電車がホームに到着し、開いたドアから数人が下りてきた。  キャリーバッグを持ち上げて乗り込んだ彼女の目を、僕は真っ直ぐに見つめる。 「楽しかったよ、毎日」    今日は朝から晴れていた。それでも僕にはどこか曇っているように見えたんだ。  その日がどんな空模様でも、君といた毎日は晴れやかだったから。 「やっと向いてくれたね」  朝比奈さんはようやく僕の好きな表情を見せた。  電車のドアが閉まる。  二枚の扉がぴったりと閉じたとき、ガラス窓の向こうで彼女は何かを言った。何を言ったのかはその口の動きでわかった。  電車が動き出す。快晴の彼女を連れていく。  遠く先に見えなくなるまで見送って、誰もいないホームに一人残される。    ――おはよう。  聞こえなかった声に、僕は空を見上げた。
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