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【メッセージ 1】
(年老いた女の声)
我が愛しき娘よ。私がこのお腹を痛めてこの世に産み落とし、あの忌まわしいビル火災の日までを共に生き、暮らし、過ごした、最愛の娘。あなたは、実直で純朴で、何より素直な私の愛娘です。
そうですとも、幼いころから、何事にも真面目に取り組むあなたは、私の自慢の子どもだったのです。特に、日曜日には率先して教会礼拝に通い、最前列の席からあなたが透き通った声が奏でる賛美歌は、まさに神の至言であり、私の生きる意味と希望そのものでした。
そして、私があなたを愛したように、あなたもまた私を至高の愛で慕ってくれました。
「恋人なんか作らないわ、純潔を守って、これからも、ずっとお母さんと一緒に暮らす」
台所に立ち、大豆をコトコトと煮込みながら、あなたは口癖のようにそう言っては私に微笑みかけた。そのたびに、私はあなたを授かった幸せを、改めて神に感謝したものです。
大人になってからも、あなたのその言葉は変わらず、ますます、あなたに対する私の誇りと信頼は揺らぎ無く、心に屹立するばかりでした。
そんな愛しいあなたが、行方をくらまして、もうひと月が経ちます。娘よ。どうか、私のことを思い出してください。そして、以前のように穏やかに、ふたりで、あの田舎町で暮らしてゆきましょう。
私たちはきっと、これからも上手くやれるはずです。愛する娘よ、あなたにどうぞ、神のご加護があらんことを。
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