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再び、刑事が病室を訪ねてきたのは、それから2週間後のことだった。窓の外では、激しい秋雨が窓に吹き付けている。
硝子窓から漏れた雨音が、ざ、ざーざ、ざーざ、と部屋に微かに響き渡っている。
「刑事さん……」
「おや、声が出るようになりましたか」
刑事は僅かに微笑んで私を見た。私も目を動かし、彼に視線を投げた。
見れば、その手には、白い袋が握られている。
「あの鍵の正体が分かりました。火災のあったビルから4駅ほど離れたターミナル駅の、ロッカーの鍵でした」
そう言いながら、刑事は白い袋から、ゆっくりと何かを取り出し、ベッド脇のサイドテーブルに並べて見せた。
やがて、テーブルの上に置かれたのは、次の三つの品物であった。
ページの色褪せたポケットサイズの聖書
エメラルドらしき緑の石が嵌まった指輪
そしてなにやら淫靡な赤紫色のプラスチック製のカード
「これがロッカーの中に入っていた、あなたの所持品のすべてです」
「……これが、私の……持ち物」
「はい。カードは、さるSM倶楽部の会員証です」
そしてだ、刑事はこともなげに、重大な情報をさらりと付け加えて見せた。
「あなたには黙っていましたが、メッセージを寄こした3人が申し出た探し人の名前は、皆同じだったのですよ」
「え……?」
「井上亜由美。3人は口を揃えるように、“井上亜由美を探している”と、そう言いました」
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