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私は思わず呆けたように呟いた。
「……井上亜由美……」
「はい、おそらく、それがあなたの名前です」
「つまり、あの3人の全く異なるメッセージから導き出される人物は、同一人物であり、それが、私であるということ……?」
「……そういうことに、なりますな……」
刑事はテーブルに視線を投げた、俯き加減の姿勢のまま、静かに呟いた。まるで独り言のように。
「ですが、私も信じがたかったのです。名前が同じでも、ここまで人物像が乖離していると、あなたが本当に井上亜由美なのかと。あまりにも同一人物にしては、印象が異なりすぎる。だが。今日、このロッカーの中の所持品を見て、漸く納得できました、あなたは、井上亜由美であると」
ざーざ、ざーざーざー。
雨粒が硝子を叩く音がやけに耳障りだ。私は震える声で言葉を放った。
「そんな……私はいったい、何者なのですか? 多重人格ってやつ?」
すると刑事は苦笑しながら、私の顔に視線を戻した。
「多重人格、そんな大げさなものではありませんよ。ただ、あなたは……井上亜由美という人間は、実に多様性に富んだ人間であった、と。それだけのことです」
「それだけ……」
「そう、それだけのことです。特に珍しいことでは、ありませんよ。世間ではままあることです」
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