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 冬村は一日中、石山に振り回されながらも、自分に割り当てられた仕事を着実にこなしていった。 (この調子なら、今日は定時で帰れそうだな)  冬村は壁の時計を確認し、内心ほくそ笑む。  急ぎの用があるわけではない。ただ、訳あって周りの人間との交流を最小限に留めておきたいがゆえに、日頃から定時で帰るよう心がけていた。 「先輩! 今日仕事が終わったら、部署の皆さんが俺の歓迎会やってくれるんですけど、先輩も来ますよね?」 「いや、俺は……」  石山からの誘いを断ろうとしたその時、 「あー、ダメダメ。冬村君はそういう集まりには行かない人だから。ってなわけで、ついでにこれもやっといてくれる? どうせ暇でしょ?」  タイミング悪く上司が通りかかり、大量の書類の山を冬村のデスクに置いていった。  とても一人で片付けられる量ではなく、定時どころか、終電にすら間に合うかどうか怪しかった。 「んじゃ、おつかれー」 「ちょ……?!」  上司は上機嫌に鼻歌を歌いながら、オフィスを去っていく。  冬村はその背中に手を伸ばしたまま、何も言えずにパクパクと口を開閉することしか出来なかった。 (あ……あンのクソ上司……!)  恨みではらわたが煮えくり帰りそうになったが、頼まれた以上はやるしかない。  冬村は諦め、書類の一枚に手を伸ばす。周囲は憐れみの視線を向けるばかりで、冬村を手伝おうとはしなかった。  ……ただ一人を除いて。 「先輩、俺も手伝いますよ!」  冬村が手に取ろうとした書類を、石山が横からかすめとる。  冬村は驚き、目を見張った。 「い、いいのか? 歓迎会に遅れるぞ?」 「歓迎会が始まるまでには終わらせますよ! その代わり、先輩も俺の歓迎会に来てくださいね?」  石山はいたずらっ子のように、ウィンクする。  その言葉とは裏腹に、彼のキーボードを打つ手つきはたどたどしかった。 「あ、あれ? ここってどうやって操作するんだっけ? わっ! 全部消えた!」 「それは……」  冬村が教えようとすると、「そこはこうやるんだよ」と他の同僚が横から石山に教えた。  見れば、先程まで遠巻きに眺めていた同僚達が二人の周りに集まっている。彼らは山になっている書類を何枚か手に取ると、自分の席へと戻っていった。 「しょうがない、俺達も手伝うか」 「石山だけに任せていたら、終わる仕事も終わらないしな」 「一つ貸しだよ、二人とも」 「あ、ありがとう……」  結局、その場にいた全員が「石山が頑張ってるから」と、冬村に押し付けられた仕事を手伝った。
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