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2.
オークツリーに初めて会ったのはまだ俺が小さかった頃。その頃、俺は仲間からよくいじめられていた。真っ黒な翼と髪の毛。愛想良くない奴。何を考えてるかわからない奴。そんな些細な理由で、泣かされていた。今だったら言わせたままにはしないが、当時は怖くて仕方なかった。いつも一人で、丸くなって、声を抑えながら泣いていたことを覚えている。
そんな中、ある日、突然誰かから肩に手を乗せられて、驚いた。俺が振り向いたその先にいたのがオークツリーだった。その時は『木』ではなくて、ヒトの姿をしていた。初めて見た彼はすらりと背が高く、水色の髪の毛。そして水色の瞳。あまりに異形ではじめ言葉が出なかった。
手を伸ばしてこっちにおいで、と言われた時の声は今でも覚えている。寒くて暗いところから、森の中心である、木の本体に近づいたとき、俺は足を止めた。この枝や周りには仲間たちが寛いでいる。そんなとこに自分が行ったら何を言われるか分からない。繋いだオークツリーの手を無意識の内に強く握り、俯き立ち止まった俺の気持ちに気づいてくれたのか、オークツリーは振り向いて俺の顔をそっとあげた。
『いいかい。あの幹のちょっと上に穴が空いてるだろう、あそこまで飛んで、穴の中に入りなさい。少しだけ降りたらそこでゆっくりするといいよ』
幹の穴はそんなに高い位置ではなかったので軽々とたどり着けた。地上にいたはずのオークツリーを探したがもういなかった。不安に思いつつも穴の中を下降して出会ったのがこの蔦と葉の絡み付いた緑のベッドだ。俺が驚いてると、さっきまで聞いていたオークツリーの声が頭上から聞こえた。
『ここは私の身体の中だから、安心しなさい。ここなら誰も入ってこないから』
その時、俺は初めて水色の瞳の彼が、この木のヒト型だと知った。それからしばらくすると、体が大きくなるにつれて俺はいじめられることもなくなった。周りの仲間たちも、大人になったのか分け隔てなく暮らせるようになってきた。最近では何故か俺が賢い、と噂になっているらしくあちこちで話しかけられるようになった。みんなと普通に暮らすようになり、寂しいとも感じなくなったのに、俺は相変わらずオークツリーの中で毎日、一人で羽を伸ばしている。
「今日はどんな日でしたか?」
オークツリーの穏やかな声が辺りに響く。こうやって毎日、その日一日どんな日だったかをオークツリーは聞いてくる。俺たちと違い、基本的に動かないオークツリーは俺が話す森の様子や森の外の話を楽しみにしているようだった。
「そうだなぁ……あっ、ウッドペッカーの奴がケーキにくるみをまぶしたいけど、硬くて殻が割れないっていうからさ、高いとこから落としたら反動で簡単に割れるよって教えたんだ。それだけなのに、すごいって褒められた」
「はは、それをすぐ思いつくのは、クロウだからですよ。みんな中々思いつきませんよ」
そうかなあ、と俺は鼻をかく。鼻をかく癖は自分でも分かっている。嬉しいときや、照れるときについつい、かいてしまうのだ。サワサワ……と、頭上の枝が揺れる。まるでオークツリーが笑っているかのように。オークツリーのヒト型は初めて会った時しか、見ていない。そもそもヒト型になれるのは動物だけのはずだ。それなのに、何故植物であるオークツリーはヒト型になってたんだろう。それは以前からオークツリーに聞いてみたい、と思っていた。そしてもう一度あの水色の瞳に会いたいと思っている。
「なあ、植物はヒト型になれないって聞いたことあるんだけど。なんでオークツリーはヒト型になれんの?」
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