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4.
ウッドペッカーは大喜びしながらその袋をフォックスから奪い取る。さっそく仕込まないと、と嬉々としてそれを持ちながら自分の寝床へと帰っていく。
「よく俺が好きなのを、覚えてたな」
「そりゃあ、将来の嫁の好物は覚えるさ」
しれっとフォックスがそう言いながら俺の手を取った。ひんやりとする体温が伝わってきて、思わず身震いしてしまう。フォックスの顔を見ると細い目がゆっくりと開いて、中から黄金の瞳が俺の顔を射抜く。
「なあ、本気じゃないと思ってんの、クロウ」
フォックスは俺がまだ仲間たちと打ち解ける前くらいに、声をかけられた。そこからの仲だ。初めは普通に遊んでいたのだけど、いつの日からか俺の翼を触りたがるようになった。漆黒の翼がかっこいいと言われて、俺も悪い気はしなかった。翼くらいいいかと気にしていなかったのだが、その次は頭をその次は顔に触れてくるようになっていた。さすがにいい気はしなくなりやめろ、と制したのはつい最近のことだ。これ以上、触るなと恫喝すると、フォックスはそれまで見たこともないような冷めたような目を向けてこう言った。
『俺が初めに、クロウを見つけたんだ。他の奴らに渡すもんか。この翼も、その艶やかな髪も。そしてその顔も。全部、俺のものだ』
それを聞いた時、俺は激しく動揺してその場を走り去った。何を言っているんだ、と。そんな目で見ていたのか、と思いながら。しばらく距離を置いてみようとしたが結局、事情を知らないウッドペッカーが間に入りまたズルズルと会うようになってしまった。それでも極力二人にならないようにしているのだが……
「まあそんなに警戒すんなって。無理矢理は良くないもんな」
黄金の瞳をしまって、また細い目になったフォックスは笑う。仲間の間でもフォックスの瞳は美しいと評判だ。確かにそう思うのだが俺はこの瞳が冷たく感じて苦手だ。この瞳より、オークツリーの水色の瞳を見たい。
「何で俺なんだよ。キツネとカラスじゃおかしいだろ」
「こだわる必要ねえよ。現に雲雀【ラーク】が山猫【リンクス】と結婚したろ。デコボココンビで笑えたけどな。俺らは丁度、同じくらいの身長だしお似合いだろ」
笑いながら俺の手を強く握る。手を離そうとしたがこの細い腕から出る力とは思えないくらい強くて、離すことが出来ない。気がつくとフォックスの顔が近づいてきた。そして俺の耳のそばで呟いた。
「何だったら、このままお前を独り占めしてもいいんだぜ」
フォックスはそう言うと、そのまま俺の耳たぶを舐めた。ザラザラとした舌の感触に思わず身震いする。空いている手で俺の顔に触れてくる。嫌だ、嫌だ! 助けて、助けて……オークツリー!
「やめろっ」
ありったけの力を出してようやく手をほどいた俺は、フォックスを睨みつけて翼を広げた。そしてそのまま飛び立つ。その時に見たフォックスは俺を見ながら、ニヤリと笑っていた。
早くオークツリーの中に、行きたい。こんな気持ちを癒して欲しい。そう思うあまり、俺はウロの中に入った途端、落下するようにオークツリーのベッドにたどり着いた。あまりに勢いよく入ってきたものだから、きっとオークツリーが驚いているだろう。だけど俺は顔をベッドに埋め、オークツリーの言葉を耳から入らないように両手で塞いだ。遠くでオークツリーの心配する言葉が聞こえる。でもいまは何も話したくない。俺はモヤモヤしたこの気持ちを吐き出せないまま、丸く埋まって、目を瞑った。
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