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フォックスに言い寄られたのは以前からだが、あんなに強引にしてきたのは初めてだ。嫌悪感で目が眩む。と、同時にあのとき自分がオークツリーに助けを乞うたことに驚いた。オークツリーが助けに来るわけなどないのに。何故、そう思ったのか。答えがあと少しで分かりそうだけど、分かりたくない自分もいる。怖い。フォックスも、自分も。 不意に足元が暖かくなって、俺は驚いて足元に目をやった。足元に大きな葉っぱが幾重にも重なっている。冷えてしまった足元を暖めようとオークツリーがかけてくれたのだろう。オークツリーは何も言わなくなったけれど、きっと俺の様子を心配してくれている。俺はだんだんと冷静になってきてベッドから顔を離し、仰向けになった。 「……オークツリー、ごめん。心配してくれてありがとう」 「もう大丈夫なのですか?」 恐る恐る、オークツリーが聞いてきた。 「うん。……もう大丈夫」 「クロウ、無理しなくて良いから」 「あのさ俺フォックスに襲われそうになったんだ」 ザワ、と枝が揺れる。 「なんでか分かんないけど、以前からそんなこと、言ってたんだ。俺、甘く見てたんだよな。どっかで冗談なんだろうなって。もし、冗談じゃなくてもアイツならこっちの方が力あるから逃げ切れるなんて。でも今日、俺、逃げてはきたけどアイツの力と、本気を甘く見てた。なあ、オークツリー。俺、どうしたら良いんだろう。怖いんだ」 ザワザワと枝から木の葉がたくさん落ちて来る。オークツリーは何も言わない。きっと困っているんだろう。打ち明けたとこで困らせると分かっていたけど……。 すっとベッドを包んでいたいつもの灯りが少し暗くなった。それは俺がここにきて初めてのことだ。外が雨でも、この中はいつも暖かな灯りが差し込んでいるのに。俺は驚いて起き上がりベッドに座った。すると目の前に誰かのヒト型が現れた。スラリとした体に水色の髪。そして水色の瞳。会いたいと願っていたオークツリーのヒト型だ。 「オークツリー……」 俺は驚いてしまって、体を動かすことが出来ない。俺らはヒト型になるときは本来の身体から擬態する。そのため身体はあくまでも一つなのだ。それなのに、オークツリーは本体である『木』が存在しているのにヒト型も存在している。どうしてこんなことが出来るんだろう。 そう考えているうちにオークツリー が俺に近寄ってきて、目の前に来たと思ったら俺の身体を抱き締めた。目を見開いているとオークツリーの身体からふんわりと新緑の香りがした。もうリスたちが冬眠に向けて食料を集めている時期だというのに。 「クロウ、いいかい? 何かあったら助けを呼んで。私はこうやって分身が出来るんだ。すぐ駆けつけるから」 オークツリーの声がいつもより心強く聞こえて、俺は何だか泣きそうになる。抱きしめてくれているその身体に俺は腕を伸ばす。肩の向こうにあったオークツリーの顔が振り向いて真横に来た。水色の瞳がジッとこちらを見る。その瞳に吸い込まれる様に俺も見つめていると、オークツリーの方から唇を重ねてきた。一瞬のことで俺は驚きはしたけど、何処かでそれを望んでいた。そうだ、だから俺はあのときオークツリーに助けを求めたんだ。小さな頃から見守っていてくれたオークツリー。水色の瞳を持つオークツリー。俺はそんなオークツリーに惹かれたんだ。離れた唇を追うように、今度は俺が身体を引き寄せてその唇に重ねる。お互いに求めあっていることが、こんな形で明白になるなんて。
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