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夫を…
私の目の前から消す…前夜…
私はスープを、煮込む…。
まず、鶏のもも肉を小さく切って塩コショウをまぶし、鍋でいため…そこに、タマネギ…じゃがいもと人参を投入…しばらく炒めて…そこに、コンソメをいくつか投入… そこに塩を一つまみ程度…。
具材に少しの焦げ目がついたら… 水を1リットル…
あとは、ふたを閉めて圧力をかけるだけ…
プシュー… … … 水蒸気が…
勢いよく、天井にのぼっていく…。
このスープは…夫… 祐也… の大好物…
付き合っていた時から…祐也が好きだと言っていた…ずっと好物だったこの鶏肉ベースの野菜スープで… 私は夫を殺める…。
そういえば昔… そんな歌詞の歌が…あった気がする…。ふふ…
…… … … コトコトコトコトコト … … ………
最後の仕上げに…
魔法の粉末をふりかける… 味が少し、変わるかもしれないけど…
味音痴な夫は…きっと、その変化に気付かない・・
私は緻密に計算している…
このスープは、夫の専用のマグカップ、4杯分飲むと…
死に至る…
じわじわと、じわじわと… ほぼ、違和感を感じない程度に…
恐らく、明日の朝食…あたりで…
お別れの時が、来るかもしれない…
ふふふん、ふふふん…
夫は最後…
人生の、最期に…私をどんな風に見つめるだろう‥
その…いく、ときの表情が、今の私の…一番の楽しみ…
ああ…早く… 早く帰って来て… 祐也… 愛してる…
好きだから、… 愛してるから… もう… これ以上…
あなたが私以外の誰かを抱くなんて、耐えられない…
バタン… ドアが開く音…
夫が帰宅した。
「ただいま…志乃、今日は久々に早く帰れたから、駅前のプリン買ってきたよ…。好きだったよね…?最近これ、食べてないなと思って…」
「お帰りなさい…あなた…そうね、大好きよ、そこのプリン…クリーミーですごく美味しいし…ありがとう…冷やしておくわ…今日の食後のデザートにちょうどいいわ…。」箱を受け取り、冷蔵庫へしまう。
「そうそう、あなた…私も今日は久々に、あなたの昔から好きだった鶏肉と野菜のスープ…なぜだか思い出して久々に作ってみたの…おかわりもあるから、沢山飲んでね…」
「いいね…それは、久々だ…。外がすごく寒かったから、スープとかそういうの、飲みたかったんだ…すぐに頂くよ…着替えてくるね…」
「ええ…温め直しておくから… ゆっくりいらして…」
ふふふん、ふふふん…
ああ… 楽しみで仕方ない…
夫が最近食べていないのは…駅前の、プリンじゃない…
私… 私、自身だ…
もう少し、…気まぐれでもいいから… 私に…
手を、出してくれていれば…こんな最期を迎えなかったかもね…?
「お待たせ…ああ…お腹が空いたな…」夫がゆったりとした部屋着でやってきた。
「はい、…私特製の魔法のスープ… 温まるわよ…沢山どうぞ」
「ありがとう… いただきます…」
「はい、召し上がれ…」
私は最高の笑顔で微笑みながら…
マグカップいっぱいに注いだ特製野菜スープを渡す…。
夫の喉に、スープが流れていく…
のどぼとけが、ゆっくりと上下する…。
「う…う……っ」
あら…
うまい…?って、言いたいの…?
私のスープ…やっぱり、うまい…?
それとも、久々に飲んだ感動で、泣いてるの…?
「あなた、そんなに喜んでくれて私も嬉しい…でも、私はそれ、作るのでお腹いっぱいになっちゃった…私は先に、プリンの気分だな、いただきます…」
私は冷えた、クリーミーなプリンを、ひとさじすくって口に運ぶ。
「甘くて冷たくて、すごく美味しいよ、あなたは…?」
「…ぅあ…ぅあ…」
そう…あなたも美味しい…みたいね、良かった…
あら… もしかして、分量…間違ったかしら…?
前夜のつもりが、
今夜… になるかも…?
まあ、どっちでもいっか…
ゆっくり、
ゆっくり…
おやすみなさい。
最期に、いい夢を…
~fi n~
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