【完結】…前夜…

2/2
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
夫を…  私の目の前から消す…前夜…  私はスープを、煮込む…。 まず、鶏のもも肉を小さく切って塩コショウをまぶし、鍋でいため…そこに、タマネギ…じゃがいもと人参を投入…しばらく炒めて…そこに、コンソメをいくつか投入… そこに塩を一つまみ程度…。 具材に少しの焦げ目がついたら… 水を1リットル…  あとは、ふたを閉めて圧力をかけるだけ… プシュー…  …  …   水蒸気が…           勢いよく、天井にのぼっていく…。 このスープは…夫… 祐也… の大好物… 付き合っていた時から…祐也が好きだと言っていた…ずっと好物だったこの鶏肉ベースの野菜スープで… 私は夫を殺める…。 そういえば昔… そんな歌詞の歌が…あった気がする…。ふふ…    …… … … コトコトコトコトコト … … ……… 最後の仕上げに… 魔法の粉末をふりかける… 味が少し、変わるかもしれないけど… 味音痴な夫は…きっと、その変化に気付かない・・  私は緻密に計算している…  このスープは、夫の専用のマグカップ、4杯分飲むと…               死に至る…     じわじわと、じわじわと… ほぼ、違和感を感じない程度に… 恐らく、明日の朝食…あたりで…         お別れの時が、来るかもしれない… ふふふん、ふふふん…    夫は最後…     人生の、最期に…私をどんな風に見つめるだろう‥ その…いく、ときの表情が、今の私の…一番の楽しみ…   ああ…早く… 早く帰って来て… 祐也…    愛してる…  好きだから、… 愛してるから… もう… これ以上…      あなたが私以外の誰かを抱くなんて、耐えられない… バタン… ドアが開く音…               夫が帰宅した。 「ただいま…志乃、今日は久々に早く帰れたから、駅前のプリン買ってきたよ…。好きだったよね…?最近これ、食べてないなと思って…」 「お帰りなさい…あなた…そうね、大好きよ、そこのプリン…クリーミーですごく美味しいし…ありがとう…冷やしておくわ…今日の食後のデザートにちょうどいいわ…。」箱を受け取り、冷蔵庫へしまう。 「そうそう、あなた…私も今日は久々に、あなたの昔から好きだった鶏肉と野菜のスープ…なぜだか思い出して久々に作ってみたの…おかわりもあるから、沢山飲んでね…」 「いいね…それは、久々だ…。外がすごく寒かったから、スープとかそういうの、飲みたかったんだ…すぐに頂くよ…着替えてくるね…」 「ええ…温め直しておくから… ゆっくりいらして…」 ふふふん、ふふふん…    ああ…  楽しみで仕方ない…            夫が最近食べていないのは…駅前の、プリンじゃない…                 私… 私、自身だ…  もう少し、…気まぐれでもいいから… 私に…  手を、出してくれていれば…こんな最期を迎えなかったかもね…?   「お待たせ…ああ…お腹が空いたな…」夫がゆったりとした部屋着でやってきた。   「はい、…私特製の魔法のスープ… 温まるわよ…沢山どうぞ」         「ありがとう… いただきます…」   「はい、召し上がれ…」       私は最高の笑顔で微笑みながら…      マグカップいっぱいに注いだ特製野菜スープを渡す…。         夫の喉に、スープが流れていく…        のどぼとけが、ゆっくりと上下する…。          「う…う……っ」     あら…     うまい…?って、言いたいの…?     私のスープ…やっぱり、うまい…?     それとも、久々に飲んだ感動で、泣いてるの…?   「あなた、そんなに喜んでくれて私も嬉しい…でも、私はそれ、作るのでお腹いっぱいになっちゃった…私は先に、プリンの気分だな、いただきます…」    私は冷えた、クリーミーなプリンを、ひとさじすくって口に運ぶ。      「甘くて冷たくて、すごく美味しいよ、あなたは…?」            「…ぅあ…ぅあ…」      そう…あなたも美味しい…みたいね、良かった…                あら… もしかして、分量…間違ったかしら…?            前夜のつもりが、             今夜… になるかも…?                        まあ、どっちでもいっか…                     ゆっくり、            ゆっくり…                   おやすみなさい。                                         最期に、いい夢を…                                             ~fi n~
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!