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「あなた…今日は遅いの…?それとも、帰ってくる…?」
「ああ…今日は、多分遅くなる。最近忙しくて… …ごめん…」
「そう…、わかった…じゃあ、夕飯はいらないの?」
「ああ…今日は会社でコンビニ弁当か…帰りに、適当にその辺で済ますよ…」
「そう…わかった。じゃあ、先に食べてるわね…あまり遅いと寝てるかも…」
「ああ…いいよ、それで」
「行ってらっしゃい、あなた。」
「行ってきます。志乃」 バタンと…無機質な音を立てて閉まるドア。
朝の、よくある夫婦の会話だ。
私と夫の祐也は、結婚して10年になる。
結婚して数年はお互いの欲求に忠実に…お互いを激しく、求め合った…
そして、それから数年は子作りに励んだが、
残念ながら子供には恵まれなかった。
でも、私はどうしても子供が欲しかった…
愛し合う二人の愛の結晶が…欲しかっただけ…なのに…
…そのうち…私の夫に求める態度が夫の重荷になったのか、いつしか夫は私を抱かなくなった。
週に一度から…、2~3週間に一度… そして気付けば月に一度…の、頻度…
そして今はもう…1年以上も…そういう行為をしていない…。
「ね…祐也…今日はどう…かな…?一番…妊娠しやすい日…なんだけど…」
「…ん… 、ごめん…志乃・・今日はすごく、疲れてて…どうも、無理そうだ…」
「…うん… そうよね。ごめん・・ お休み…」
これまでに、そんな会話を何度…繰り返してきただろう…
もう何度…夫の隣で、涙を堪えて眠ったふりをしたか、わからない…。
そんな時に発覚した、夫の不倫…
夫がいつになく酔っぱらって帰ってきた日の深夜、携帯が光とともにブルブルと振動した…
その、ホーム画面の一瞬のメッセージが、私の目に…飛び込んできた…。
「祐くん…今日はすごく楽しかった…短い時間でも会えてすごく幸せだった。また、遊んでね…大好き…」
ご丁寧に…語尾にハートマークがついている…
恐らく、私より随分若い世代の…女からの…メッセージ…
見た瞬間、
…心臓が、止まるかと思った…。
まさか…真面目で堅物な夫が…
祐也が…浮気をするなんて思ってもいなかったのだ…
私は、能天気な顔をして顔を赤らめて…むにゃむにゃと寝息を立てながら眠っている夫に、初めて…軽い殺意のようなものを、覚えた…。
夫が私を抱かなくなって2年…
私には、どれだけ勇気を出して誘っても、指一本触れないくせに…
外で若い女と会ってその身体を…貪っていたなんて…あまりにひど過ぎる…
私はその日から、夫の前で、心から笑うことができなくなった…。
もちろん、夫に悟られる私じゃない…
態度だけは…ずっと普通にしていた… それから、…数か月経った頃…
ついに…我慢の限界を感じる日があった。
いつもどおりの朝…
「あなた…今日は…?」
「うん…多分、残業になるから、いいよ…先に寝てて」
「うん、…わかった…あまり無理はしないでね…」
「ありがとう…適当に切り上げて、帰るから…」
その日の夜、8時過ぎ…夫から電話があった。
「はい…もしもし… もしもし … あなた… ?」
夫は言葉を発しない…。
「あなた…、どうしたの…??」
もう一度、受話器を耳に当てる…
向こうから、電話がかかったにもかかわらず、
夫は何も、喋らない…。
思わず、つけていたテレビの電源を切る…。
訪れる静寂…
ふと…
遠くで、何か聞こえる… … 何…?
「… あ… … っ…ん …」
誰か… 女…の声…、な…に…?
「 … っ ん、… あっ… ンんっ… ゆうく…っん …ぁあ、んっ…」
「はぁっ‥は…っ ななみっ … っはっ… くっ… 可愛い…ああ…」
男女の…淫らな、声…
ギシギシと、軋む音…
「もっと… あぁ ん、…、抱いて…抱き締めて… ん、…もっとぅ…深く…きてぇ… ゆうっ…くぅ、んっ!」
「…なな…ななみっ‥好きだ…あ…ななの身体、良すぎ…俺もう…っ…くっ」
「ああぁ…ん … ああ…好き…好き…ゆうく・・・あああぁ っん‥」
ギシギシと軋む…ベッドの音と…ともに…
遠くだが…鮮明に聞こえた
男女の…絡み合う身体の…濡れた…ぶつかり合うようないやらしい音…
女の息遣い… 甲高い、喘ぎ声…
男の… 切羽詰まったような低いうめき…
私の頭は…真っ白になった…
なんでこんな…
私がなんでこんな目に…
合わなきゃいけないのか……わからない…
どうして… こんなことが出来るのか… 私が何をしたの…?
私はただ…夫を愛していて…愛する人との子供が…欲しかっただけだ…
夫は私を… ひどい仕打ちで、裏切った…
不注意にしろ、女とのセックスの様子を…
あんな…淫らな …最低の行為…の様子を…声を、私に聞かせるなんて…
どんな、地獄だ…
私はこの日、夫を…
祐也を… この世から、消すことに決めた…。
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