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 勤務先の病院は、大晦日に友人や家族とパーティーをし、浮かれた結果の負傷者が運ばれて来ることが多く、浮かれすぎるのは良くないよなぁと大晦日に当番に当たっている同僚とともに苦々しく笑っているのは、他の同僚の医者から今日の当番を代わってほしい、その代わり無理を一つだけ聞くと約束をすることでいつかの未来の貸しを作った杠慶一朗だった。  年末年始のパーティーには興味が無く、大晦日にカウントダウンやニューイヤーの花火を見る事にも特に興味も無かったため、毎年大晦日に仕事に出ていた慶一朗だったが、元日の午前中で仕事を終えた後に二週間の休暇を取り、文字通り心身のリフレッシュを図っていた。  慶一朗にしてみれば二週間の休暇の方が嬉しい為、今夜一晩ぐらい仕事をしていても平気だったが、最近その気持ちに少しだけ疑問を呈する己もいて、先日もその疑問の原因となった恋人と少しだけ口論になってしまったのだ。  慶一朗の恋人は同じ病院で働く小児科医で、名前をリアム・フーバーといい、ドイツ出身の爽やかな笑顔と鍛えられた肉体を持つ青年だった。  年下の恋人との口論を思い出してしまい、無意識に溜息を零した慶一朗に同僚がどうしたと声を掛け、恋人とケンカでもしたかと笑われて一瞬どきりとしてしまうが、それを顔に出すことは無くいつも浮かべている笑みを浮かべ、少し疲れただけだと手を振る。  「・・・少し落ち着いたようだから仮眠して来る」  「何かあったら直ぐに起こす」  「永眠させるぞ」  この日最も働いているのが慶一朗だと分かっている同僚がニヤリと笑みを浮かべて彼に手を振り、起こす前に自分で処置をしろと皮肉気に笑った慶一朗は、ヒラヒラと振られる手を一つ叩いて詰所を出、少し離れた場所にある仮眠室のドアを開け、いくつか並ぶ二段ベッドの下段に寝転がる。  同じ病院で働く同性の青年と付き合っている。  その事実を慶一朗は誰にも話しておらず、恋人のリアムも慶一朗との仲の良さは友達関係だと公言していたし、またそう思われていた為、二人の仲を疑う人はいなかった。  だから、酒に酔って階段から転がり落ちて流血した人の手当てを終えたスタッフらが、昨日から休暇に入っているはずのリアムが紙袋を片手にやって来て一息ついているドクター達に慶一朗はと問いかけた時も、親友への差し入れかと笑ってくれたのだ。  「あー、ケイなら今仮眠室に行ったぞ」  「ありがとう」  専門である小児科を受診する子供達やその親からも評判の良い笑顔で手を挙げ、同僚達に持参した紙袋を預けたリアムは、ドーナツとコーヒーを買って来たと告げ、腹を空かせた学生のように紙袋に群がる医者達に肩を竦めると、使用中の札がぶら下げられている仮眠室のドアをそっと開けるのだった。
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